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文字数 1,679文字
口の端を微かに上げたツァックを、少年はふっと熱を失った目で見る。
三大魔術師、最後の一角。マレフィカ。
劇団と呼ばれる信奉者たちを率いる魔術師で、眠りにまつわる魔術を得意としている。実年齢は不明だが、少女の姿をしているらしい。
エンドロールの常連だ。
本人は魔術師ではないと公言しているが、怪奇事件に幾度か巻きこまれているだけでなく、独自で調査も行っているため豊富な知識を持っている。自分から魔術の世界に首を突っこむ、奇特な人物だった。
連続失踪、集団自殺。
多くの人間が原因も動機も分からないまま消える事件の裏には、たいてい楽団かハーメルンが潜んでいる。
表情を失った少年が、ゆっくりと口を開いた。
ハーメルンなら村ひとつ。楽団の者でも一家丸ごとは連れて行く。だからこその行進曲だ。
しかし今回は、一日に数名ということもあったが、全員が別々の場所から、異なる時間帯に連れ去られていた。
まるで、なにかを待っているように。しびれを切らすたびに、人をさらっているように。
人命に価値を見出していないハーメルンや楽団の仕業とは、思えない。
動機だけが分からない。それぞれの信奉者たちを軍隊のように率いた三大魔術師の間で、戦争を起こすつもりとも思えない。メイガスもハーメルンもマレフィカも、この程度では指先ひとつ動かさないだろう。
少年の手が祭壇上の杯を掴み、磔刑の像にばしゃりとかけた。