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文字数 755文字

 反射的に振り返ると、青白く発光していた像が崩れていた。茫然としている少年を階段に残し、ツァックは像の残骸に駆け寄る。

手のひらと心臓に血がついてる。まるでさっき出血したみたいだ。それに、心臓にメモ。血で汚れてるけど、どうにか読めるな
“私の愛は純粋の愛だ。人に理解してもらう為の愛では無い”
純粋の愛?
(壊すことが純粋の愛ってことか? それとも、壊されているこの救世主の像が、自らのなにかしらの行いを指して、純粋の愛と言っているのか?)
(裏切り者……、処刑。メモの文字は、特徴的ではないけど全部同じだ)
どう思う? 少年
わかんない
子どもには難しいかー
ここには銀貨があっただけだな。使えそうなところといったら天秤か。光も消えそうだし、真っ暗になる前に戻ろう
うん

 つまづかないように気をつけながら、礼拝堂に戻る。祭壇の後ろの像を見て、ツァックは香油の使い方も理解した。



 とむらいの供え。地下で朽ちるように崩壊した、救世主の像。

じゃあ、銀貨を天秤に載せるぞ
あぁぁ! オレのベレッタちゃん!
 天秤の片側にひと口大のパン、逆側に銀貨がつまった麻の袋を載せると、祭壇の端にツァックの愛銃が出現した。掴みとって安全装置を外し、ツァックは思わず冷たい銃身に頬を寄せる。
あー、よかったー。もうこれがあるだけで安心感が全然違うわ。最高
よかったね、おにいさん
本当にな。アンタも記憶が戻ったみたいだし。いや、最初から全部覚えてたのか?
魔術師の中には自分に魔術をかけて、オレみたいなのと行動をともにする酔狂な輩もいるって聞いたことがある
特にメイガスの使徒に多いそうだな
……なにを言っているの?
(香油は正直、嫌な予感がする。銃だけでもどうにかなるだろ)
裏切り者はアンタだな?
 少年に銃口を向け、ツァックは磔刑にされた救世主の前で、告発した。
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登場人物紹介

【九曜 蓮人(くよう れんと)】

失踪した姉を探している大学生。

Barエンドロールにて怪奇事件の話を聞き、魔術の存在について知ることになる。


【ツァック】

自称・マフィアの男。

過去にも数度、魔術がらみの怪奇事件にかかわってしまっている。

行方不明の妹分、ヒノを探している。

【マスター】

Barエンドロールのマスター。穏やかな初老の紳士。

魔術がかかわる怪奇事件に巻きこまれ、生還した者から話を聞くことを趣味としている。

ドリンク一杯サービス中。

【少年】

ツァックが目覚めた礼拝堂で出会った少年。自分の名前を含めたすべての記憶がない。

巷で噂の連続失踪事件の鍵を握っている……?

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