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文字数 845文字
応接室なのか、ソファとテーブル、暖炉が置かれた部屋の床に、子どもがうつ伏せで倒れている。
屈んで肩を揺すると、少年は目蓋を震わせ、ゆっくりと目を開いた。
誘拐されておいて迷子というのもおかしな話だが、事件性を示唆して子どもを怖がらせるのは気が引ける。これでも、ファミリーが管理している児童養護施設の臨時職員を務めた経験もあるのだ。
子ども好きであるツァックは、起き上がった子どもの姿を、目を細めて注意深く観察した。気は使うが、気を許すことはまだできない。
握手をするついでに立ち上がらせようと、ツァックは手を伸ばす。少年はツァックの手を掴もうとしたところで、目を丸くしてズボンのポケットをあさった。
薄桃色の花びらと、四つ折りにされた小さなメモを、少年はツァックに渡す。
魔術神メイガスや使徒たちが好んで使う方法だ、という説明はしなかった。