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文字数 609文字

漢字を読めるかどうか不安だったため、ツァックは祭壇で発見したメモをスーツのポケットから出して読み上げる。少年はよく分かっていない顔で、ツァックを見上げていた。

おにいさん、脱出するってことは、ぼくたち閉じこめられてるの?
あー……まぁね? オレたちみたいな普通の人間が、四苦八苦しながら密室から出るのを楽しく観賞してるやつがいて、今回はそいつが悪さしてる、って感じ。迷子ってのも嘘じゃないんだけど
なんで知ってるの?
そういう趣味のやつがいるって、聞いたことがあるから、そうかなって
(マフィアはたぶん、普通の人間じゃないな)

 虚実を織り交ぜつつ説明したツァックは、メモをポケットに仕舞い、花弁は片手ですくうように持っておく。逆の手で、少年の手を握った。

そろそろ行こうな
うん

 首を縦に振った少年を伴い、礼拝堂を横切って左側の部屋に向かう。ステンドグラスや整えられた祭壇、見ているだけで物悲しくなる磔刑の像に興味を示すかと思ったが、少年は見向きもしなかった。



 左の部屋には鍵がかかっていない。扉は抵抗なく開いた。

うわ
おっきい!
いやー、これは大きすぎるだろ

 部屋には家具もなにも置かれていない。



 ただひとつ、部屋の隅に巨大な羽毛の塊が鎮座していた。くちばしを有したそれは、正確には巨大すぎるカラスだ。高い天井に頭が届いてしまいそうなカラスが、じろりと侵入者である二人を見る。

こっわ
おにいさん、あの鳥さん、ケガしてるね
そうだな
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登場人物紹介

【九曜 蓮人(くよう れんと)】

失踪した姉を探している大学生。

Barエンドロールにて怪奇事件の話を聞き、魔術の存在について知ることになる。


【ツァック】

自称・マフィアの男。

過去にも数度、魔術がらみの怪奇事件にかかわってしまっている。

行方不明の妹分、ヒノを探している。

【マスター】

Barエンドロールのマスター。穏やかな初老の紳士。

魔術がかかわる怪奇事件に巻きこまれ、生還した者から話を聞くことを趣味としている。

ドリンク一杯サービス中。

【少年】

ツァックが目覚めた礼拝堂で出会った少年。自分の名前を含めたすべての記憶がない。

巷で噂の連続失踪事件の鍵を握っている……?

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