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文字数 1,378文字
道を歩いていたら、意識を失った。
さすがに誘拐じみた方法をとられたのは初めてだが、目が覚めると見知らぬ場所だった、というのは三度目なので、もうあまり驚かない。
体を起こしたツァックは、こぶになっていないことが不思議なくらい痛む頭を撫でさすりながら、周囲を確認した。
隠し持っていたナイフもなかった。愛用の武器はすべて没収された上で、光源が見当たらないというのに薄明るい礼拝堂に叩きこまれていたのだ。
魔術師の中には、ある強大な魔術師の元に集った信奉者的な魔術師たちもいる。有名なのが“魔術神”メイガスを信奉する“使徒”と、“行進曲”ハーメルンを信奉する“楽団”だ。
この二人と、もうひとり特に大きな団体を率いている者が存在し、メイガスら三名は三大魔術師とも総称されていた。ただし、各々の思想や得意な魔術、事件の起こし方などはまるで異なる。
下々の魔術師たちの性質は、信奉する魔術師の性質に左右されやすい。使徒はメイガスの真似を、楽団はハーメルンの真似をするのだ。
さすがにそれは望みすぎかと、苦笑しながら残骸になっている椅子を避けつつ、ツァックはステンドグラスに近づく。
どうやら、左右で同じ光景が描かれているようだった。
木片を足で乱雑に払い、ツァックは綺麗に整えられた祭壇に向かう。