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文字数 1,006文字

こんばんは、ツァックさん

よ、マスター。そんで? そっちの見ない顔が店を余計に暗くしてやがるんだな?

 堂々と店の扉を開けて入ってきた男が、固まっている蓮人の隣に断りもなく座る。マスターが名前まで把握しているということは、常連らしい。



 現に、初老の男は注文も好みも聞かず、横に広く縦に短いどっしりとしたグラスを出してきて、丸く削った氷を入れ、琥珀色の酒を注いでから、男の前にそっと出した。

お疲れのご様子ですね
そーだろー? もうめちゃくちゃ疲れた。例の連続失踪事件絡みでさ
解決したんですか!?
おおう。落ち着けよ坊主。え、なに? その件で落ちこんでたの?
姉が被害者かも知れないんです!
なーるほど? でも残念、被害者がどうなるのかとか、どうなってんのかとかまでは知らないんだ
この先、この連続失踪事件の新しい被害者は出ないってだけで
……どういうことですか? あなたは警察の人、なんですか?

 もちろん制服ではないのだが、整った西洋系の顔立ちや引き締まった体にまったく似合っていない安物のスーツを着ている男は、やけに胡散臭い。



 警察だと言われても、とうてい信じる気にはなれなかった。

違う違う。オレの本職はマフィア。幹部様だぞー
マフィア?
本拠地はイタリアな。国籍もイタリア。野暮用で日本にきてるんだ。日本語うまいだろ
そう……ですね……
あはは、信じてませんって顔してやがる
じゃ、信じられないついでに、事件の話もしようじゃねぇの。な、マスター
お願いします
アンタも聞いとけ。っと、名前、言ってなかったよな。オレはツァック
九曜蓮人、です
レント。アンタは魔術って信じるか?
は?
魔術。本来なら、人間にはできないようなことを可能にする力だ。それを操るやつを、この国じゃあ魔術師って呼ぶ
魔術師らはときに、自分たちの目的を果たすために事件を起こします。怪奇な体験の話とは、そういうことなのですよ
つまり、魔術師たちが起こした事件に、巻きこまれた人の、話?
そ。のみこみが早いな。いいことだ

 にわかには信じがたかったが、マスターとツァックがからかっているのだという雰囲気でもなかった。

 彼らは魔術を知っている。魔術師を知っている。

 ぞくりと蓮人の背に悪寒が走った。グラスに添えた手が、かすかに震える。

オレが今から話すこと。つまり今回の連続失踪事件の裏側ってのも、そういう話だ。魔術師がかかわった、魔術の事件。これは
純粋な愛を示すための、犯行だった
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登場人物紹介

【九曜 蓮人(くよう れんと)】

失踪した姉を探している大学生。

Barエンドロールにて怪奇事件の話を聞き、魔術の存在について知ることになる。


【ツァック】

自称・マフィアの男。

過去にも数度、魔術がらみの怪奇事件にかかわってしまっている。

行方不明の妹分、ヒノを探している。

【マスター】

Barエンドロールのマスター。穏やかな初老の紳士。

魔術がかかわる怪奇事件に巻きこまれ、生還した者から話を聞くことを趣味としている。

ドリンク一杯サービス中。

【少年】

ツァックが目覚めた礼拝堂で出会った少年。自分の名前を含めたすべての記憶がない。

巷で噂の連続失踪事件の鍵を握っている……?

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