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文字数 813文字
よく見るまでもなく、カラスはぼろぼろだった。
黒い羽はぼろぼろに乱れ、あちらこちらに血がこびりついている。戦いを終えてしばらく経つのか、鮮血は流れていなあったが、痛々しい傷跡が随所にあった。動く気力どころか声を上げる力もないようで、ツァックと少年を見つめたまま動かない。
決して小柄なわけではないが、ツァックでは飛び跳ねたところで輪に指先をかすめさせることもできそうになかった。
少年を置いて、ツァックは花びらを差し出すように手を伸ばし、慎重にカラスに近づく。愛用の銃がないことが、ひたすらに心細かった。
カラスはくちばしを伸ばし、そっと花びらをついばむ。いつ手のひらを食われるか不安で、ツァックはほとんど無理やりカラスの口の中に花弁を突っこんだ。
直後、刷毛で塗り替えるようにカラスの色が変わった。
純白の美しい鳥になったカラスは、首を上げて縄を引っ張る。
巨大な羽を広げた鳥は、その場で頭を下げた少年の真上を通過していった。不思議なことに、扉の幅より明らかに大きかった両翼は壁をすり抜けてしまう。
カラスを追って慌てて礼拝堂に出たツァックは、小さく息をついて室内を振り返った。