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文字数 738文字

 殺さなければ捕らわれるということは、ツァックにも分かっている。像を背にし、祭壇を挟んでツァックと向かいあっている魔術師も、生きるか死ぬかの展開を望んでいるのだろう。
(オレだって、できれば子どもに銃なんか向けたくなかった)

 これまでの犠牲者は、どうだったのだろうか。



 告発できなかった者もいるだろう。告発はしたが処刑できなかった者もいるだろう。積み重なって、十五人だ。本当はもっといるのかもしれない。
質問が、二つある
なに?
連れ去ったやつらはどこにいる?
教えない
じゃあ、アンタが誘拐したやつらの中に、ヒナって名前の女はいたか? 二十歳くらいで、美人で、たぶん銃を持ってる
覚えてない
そっか

 探し人は、ここにもいないようだ。

 どこに行ってしまったのかと、ツァックは高い天井を仰ぎ見る。妹分であるヒナを追って最後に連絡が送られてきた場所である日本にきて、もうずいぶんと経過しているような気がした。



 恐らく魔術絡みで姿を消したヒナと、再会できる日は本当にくるのだろうか。

ま、今はこっちを解決するか。ヒナは見た目に反してしぶといから、どうにか生きてるだろうし
なにをぶつぶつと……
オレはアンタを処刑しない。罪を裁かず、許すってこと
……は?
許すよ。最愛のご主人サマに会いたくて罪を犯して、会いにきてくれないならいっそ殺してしまいたいとまで思いつめた、アンタの愛を許す

 純粋の愛。



 地下の崩れた救世主の像から出てきたメモを、ツァックは思い出していた。十八歳といえば、ツァックから見ればまだ子どもだ。魔術師になってからも日は浅いだろう。



 そして、盲目的なまでにメイガスに惚れこんでいたからこそ、この魔術師は気づいていない。この先どれほどの人々をさらっても、メイガスは現れないのだ。

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登場人物紹介

【九曜 蓮人(くよう れんと)】

失踪した姉を探している大学生。

Barエンドロールにて怪奇事件の話を聞き、魔術の存在について知ることになる。


【ツァック】

自称・マフィアの男。

過去にも数度、魔術がらみの怪奇事件にかかわってしまっている。

行方不明の妹分、ヒノを探している。

【マスター】

Barエンドロールのマスター。穏やかな初老の紳士。

魔術がかかわる怪奇事件に巻きこまれ、生還した者から話を聞くことを趣味としている。

ドリンク一杯サービス中。

【少年】

ツァックが目覚めた礼拝堂で出会った少年。自分の名前を含めたすべての記憶がない。

巷で噂の連続失踪事件の鍵を握っている……?

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