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文字数 907文字
きぃ、とかすかに軋んだ音を立て、地下に続く階段の先にあった扉が開く。
おっかなびっくり店内を覗きこんだ蓮人と、カウンターの中に立っていた初老の男の目があった。
照明が絞られた店の中に、蓮人はそっと足を踏み入れる。
耳を澄ませば聞こえる程度の音量で、ジャズが流れていた。席はカウンターに四席と、六人までかけられそうなL字型のソファが置かれたテーブル席がひとつだけ。
広いとは言いがたいが、手狭という感じもせず、落ち着いて時間をすごせそうだった。
三日前からずっと落ちこんでいた気持ちが、ほんのわずかだけ上を向く。緊張と興奮で心臓が高鳴っていた。
並ぶバーチェアに腰を下ろし、メニューを探す。見あたらない。
細い目をますます細め、マスターはてきぱきとカクテルを作る。蓮人は口を半分開いて、その様子にくぎづけになっていた。
考えてみればおよその価格帯も不明だが、一杯くらいなら手持ちで払えるだろう。
目の前に置かれた、細長いグラスに注がれた薄青いお酒を、蓮人は見つめる。
意を決して飲んでみると、炭酸が口の中で弾けた。口当たりはさっぱりしていて、後に引かない。アルコールの味もあまりしなかった。
柔らかなマスターの口調に、蓮人は眉尻を下げてかすかに笑んだ。
店内には、マスターと蓮人しかいない。カウンターの下でスマートフォンを出して時刻を確認すると、二十二時だった。終電まであと一時間半だ。