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文字数 1,260文字
中から現れたのは、呆然と立ち尽くすみすぼらしい格好の人物だった。眼球がない眼窩からはおびただしい量の血が流れている。香油のほのかな香りは、濃厚な鉄錆の臭いにかき消された。
頭が痛むほどの臭気にツァックは袖で鼻を覆う。気に入りの革靴が、じわじわと迫ってくる赤黒くて粘着質な液体に汚された。
めまいがする。銃口がぶれる。
精神を汚染されるような感覚に苦しむツァックを尻目に、杯を投げ捨てた少年は血の涙を流す像を憐れむように見上げた。
生贄になるなら赤子でも老人でも構わないハーメルンとは異なり、メイガスは一定の年齢制限を設けていると、ツァックは魔術に詳しい常連客から教わったことがある。使徒に幼年の子どもはいないそうだ。
また、劇団の者は揃って見目麗しいらしい。
泣き笑いとも侮蔑とも、憎悪ともとれる目で、少年の姿をした魔術師はツァックを睨んだ。
乾いた声で魔術師は笑った。双眸には深い悲しみの色が浮かんでいる。親に捨てられた子どものようだと、ツァックは銃を握り締めながら思った。
銃を下ろしたツァックに、魔術師は眉を寄せた。