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文字数 986文字
ツァックさえ気づいていることを、魔術師は見落としていた。
享楽主義の魔術神は、別の楽しみをこの事件に見出している。すなわち、魔術師の思いや動きではなく、さらわれてきた者がいかに行動するかということに。
びちゃりと血だまりを踏む。地下に続く扉は、すでに血の海に隠されて見えなくなっていた。開いておけば排水溝の役目を果たしてくれただろうかと、ツァックは今になって少し悔いる。
目尻を吊り上げて怒声を放とうとした魔術師の胸から、切っ先が生えた。
首だけを回して魔術師は背後を見る。眼窩から血を流す像の手に、いつの間にか細い剣が握られており、魔術師の心臓をしっかりと貫いていた。
像は剣を引き抜くと、役目を終えたように瓦解する。血がとまり、臭いもずいぶん軽減された。ツァックは大きく息を吸って、吐く。
祭壇に縋るように立っていた魔術師の膝が、崩れる。かろうじて顔だけを覗かせている魔術師を、ツァックは少し憐れんだ。
意識が朦朧とし始めた魔術師が、床に倒れる。ツァックは銃をしまった。
静かで美しい教会に無数の亀裂が入る。ツァックは目を閉じ、素直に気を失った。