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文字数 1,252文字

輪が引っ張られたことで縄が落ち、梯子が出現している。天井の一部の板が外れ、床に落下していた。

屋根裏部屋か
行くの?
なにかあるかもしれないからな
 不安定な縄梯子を、ツァックは上がっていく。少年は部屋で待たせておくつもりだったが、不安そうな顔をしていた子どもは置いて行かれることを嫌がったらしく、後ろをついてきた。
埃っぽいな。袖で口と鼻を隠しといた方がいいぞ
うん
がらくた置き場なのか、倉庫なのか……。綺麗なのはこれだけだな
うっすら光ってるのはどういう原理なんだ? でも、おかげであんまり暗くない
 用途不明の家具らしきものや木片が乱雑に押しこまれている中で、異彩を放っているのが青白く発光する少女の像だった。両手で桶を持った白い像は、どういうわけか全裸だ。
全身に傷がついてるな。可哀そうに、棒でめちゃくちゃに殴られたみたいだ
ねぇ、もう下りよう? なんにもないよ
明らかにおかしいものがあるけどな。像は普通、光らないだろ
でもそれだけだよ。もう下りよう?
なんだ、埃っぽいの、嫌か? まぁ普通は嫌か。よし、先に下りてていいぞ
そうじゃなくて、その像が
これ? 敵意とかなさそうな顔してるけど? っていうか本当に、見れば見るほど綺麗な顔してるな
あんまり近づかない方がいいよ
なんで?
……嫌な感じがするもん
そうかぁ?
(思春期か? 少女の裸を見るのは気まずいのかな。像とはいえやたら精巧だもんな。……それだけじゃない気もするけど)
下で待っててもいいし、後ろ向いててもいいから、おとなしくしてろよ。なにが起こるか分らんからな
うー
そんな心底嫌そうな反応されても。ああ、これとか使えそうだな

 背中に責めるような視線を感じつつ、室内を調べていたツァックは白い布を発見した。

こんなところに置いておくのはもったいない布だな。すごく綺麗だ。シルクかな。少年、触ってみる?
触らない
(反抗期まで到来かな)
像とはいえ女の子が裸っていうのはよくないな。怪我の手当てはしてやれないけど、せめて体くらいは隠してやれるだろ

 ばさりと広げた大きな白い布で、ツァックは少女像の細い体を覆う。



 視界の端、桶の中で、じわりとなにかが滲み出た。それはみるみるうちに量を増し、やがて桶がいっぱいになったところで停止する。

アロマオイル?
この匂い、やだぁ
まーだ駄々っ子みたいなこと言ってるのか、少年。まぁいいけど。あ、これに入れて運べそうだな
 柔らかな香りをほのかに漂わせている香油を、がらくたの中から発見した杯ですくう。
杯に文字が浮かんできた
“この香油はとむらいの供えに”
ってことは、死体に渡せってことか。香油はアロマオイルのことだったはず
どう思う、少年。っていないし
 いつの間にか背後から少年の姿が消えていた。片手に香油が入った杯を持って縄梯子を下りると、部屋の隅で膝を抱えているのが見える。
拗ねてるー
違うもん
あの女の子が嫌だったのか?
うん。よく分かんないけど
そっか。次、地下に行くつもりなんだけど、どうする?
いっしょに行く
おっけー。とりあえずこれは祭壇に置いておこう
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登場人物紹介

【九曜 蓮人(くよう れんと)】

失踪した姉を探している大学生。

Barエンドロールにて怪奇事件の話を聞き、魔術の存在について知ることになる。


【ツァック】

自称・マフィアの男。

過去にも数度、魔術がらみの怪奇事件にかかわってしまっている。

行方不明の妹分、ヒノを探している。

【マスター】

Barエンドロールのマスター。穏やかな初老の紳士。

魔術がかかわる怪奇事件に巻きこまれ、生還した者から話を聞くことを趣味としている。

ドリンク一杯サービス中。

【少年】

ツァックが目覚めた礼拝堂で出会った少年。自分の名前を含めたすべての記憶がない。

巷で噂の連続失踪事件の鍵を握っている……?

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