第7話 北の革命

文字数 1,070文字

 時が経つにつれ、シャルオレーネ王国で起きた内乱の全貌も明らかになってきた。
 どうやら、革命のようだ。
 間者の報告によれば、軍備を預かっていた将軍が民衆を扇動して謀反を起こしたとのこと。

 本来、シャルオレーネ王国は現ブール学院から成り立つ、セクス半島全域を領土としていた。
 その時代を体験している人間はさすがにいないものの、書物や伝聞は数多く残っていたらしい。
 それで人々は夢想した。
 肥沃で暖かな大地を――北はあまりに寒く過酷であった。
 鉱石の類は豊富にあるものの、それだけでは生きてはいけない。また、冬の季節は流氷が航路を妨げるので、頼りにしている海路での交易も難儀となってくる。
 
 その状況をなんとかしようと、王国は幾度となく帝国領土へと兵を進めたが、戦果は一向に上らなかった。
 それどころか、その度に国はやせ細っていくばかり。
 兵を失い、それを補おうと市民から徴兵し、更に失い……生産と消費のバランスが乱れるのは当然の帰結であった。
 それでも、彼らは諦めきれず。
 ついには王自らが王子たちと共に兵を率いるも、結果は最悪。
 王子たちは軒並み打ち取られ、しまいには王一人となってしまった。
 
 それが十六年前のこと。
 これを最後にシャルオレーネ王国はペニバン山脈を越えた奥地に追いやられ、帝国の目に触れることはなかった。
 その間、北方帝国は着実に力を蓄えていた。
 シャルオレーネ王国が内政を整えるまで、時間がかかるのは明白であったからだ。
 
 皮肉にも、王が新たな子に恵まれたのが決定的となった。
 高齢の王から奇跡的にも生まれた子が、全国民の期待を裏切って女だったのだ。
 女王にするにせよ夫を迎えるにせよ、シャルオレーネ王国は内部に大きな問題を抱え込んでしまった。取り除くには、数十年の月日と大きな犠牲がいるほどの火種を。
 帝国はそれを見越して兵を整え、北の大地を手中に収めるつもりであった。
 
 それなのに、革命だ。
 しかも、不甲斐ない王家に代わり、失われた領土の回復を謳っている。
 さすれば、国を牛耳ったあかつきには帝国の侵攻に移るのは必至であろう。
  厄介にも、その時期は帝国が見越していたよりも早いだけでなく、期待していた犠牲すら最小限に抑えられそうだった。
 
 早くも王都は包囲され、王城は孤立している。
 軍備を掌握した者が指揮している以上、このまま包囲は免れない。
 逃げる機会があるとすれば今しかないが、季節はまもなく冬に差し掛かり、野で生きていける環境ではなくなる。 
 もはや、シャルオレーネ王家の終焉は疑いようもなかった。
 
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登場人物紹介

 リンク・アン・リンセント(14歳)

 一代騎士の嫡男だが、その振る舞いは成り上がりとは思えないほどきちんとしている。それでいて不真面目な態度を取ることも多い為、友人からは怠惰の騎士様と呼ばれている。

 基本的な能力は高い上に多芸。また幅広い見識を備えており、労働奴隷とも交友を持っている。

 本人に目立つつもりはないものの、皇女に懐かれたことにより注目を浴びる羽目となる。

 帝国では珍しい夜のような黒髪と瞳を有している。

 スーリヤ・ユンヌ・ストレンジャイト(12歳)

 北方正帝の愛娘で皇女だが、その振る舞いから姫剣士様の愛称で親しまれている。

 政争には向かない性格な為、中央ではなく辺境のブール学院に入学。

 長い金髪に青い瞳。全体的に控えめな身体つきはしているものの、性格は苛烈そのもので喧しい。

 それでいて、気を許した相手には全面の信頼を寄せる。 

 コート・オブ・アームズ《紋章の上着》は武具に埋もれた竜。

 グノワ・グロコーフェン(14歳)

 体格に恵まれている為、農民の出でありながらも武芸に秀でている。

 気性は真っすぐで軍学校に入る前はガキ大将だった模様。

 ブール学院において、数少ないリンクの友人のひとり。

 アーサー・アナドレイ(13歳)

 グノワとは同郷で幼馴染。

 リンクのことを騎士様と呼び、阿るような態度を取る。

 それでいて軽口を叩くことから、身分とは別の親しみも持っている様子。

 

 フィリス(12歳)

 スーリヤの奴隷。ただ帝国において奴隷は財産――他人に自慢できるモノである為、身なりは整っている。

 更に武芸や知識も備わっており、あらゆる能力が王侯貴族にも負けず劣らずといった仕上がり。

 銀色の髪に灰色の瞳を有し、年齢の割に発育は良好。

 奴隷として生まれたのではなく奴隷に堕とされた存在ゆえに、今の恵まれた立場がスーリヤのおかげであると強く認識し、心からの忠誠を誓っている。

 リアルガ=リンセント(15歳)

 リンクの姉だが、その性格は真面目で普通。能力も優秀ではあるが常識の範囲。

 何故か弟に対して、敵意すら感じられる振る舞いをしている。

 リンクとは違い、北方帝国ではありふれた栗色の髪と瞳を有する。 

  

 メルディーナ・ブルジェオン・ドゥ・シャルオレーネ(12歳)

 北方帝国と敵対しているシャルレオーネ王国の王女。見事な黒白(こくびゃく)――夜の髪と雪のような肌を持つ。

 革命によりその命を脅かされるも、指導者としての才を発覚させることで生き延びる。

 その結果、王女自らが前線に立つ無謀な進軍を強いられる。

 ラルフ=ホークブレード(34歳)

 シャルレオーネ王国の近衛騎士。

 多くの戦を経験し功を立てて来たものの、国力の無さゆえに未だ一騎士の立場に甘んじている。

 メルディーナ王女の信頼が最も厚い人物。

 ディルド・トロア・ディオアヌス(18歳)

 東方帝国の皇子で既に大人顔負けの体躯を有している。

 性格は横柄で悪いものの、驕りはなく相応の実力と器を持ち合わせている。

 コート・オブ・アームズは武具に埋もれたヒト型の怪物。

 

 

 イラマ(19歳)

 ディルドの奴隷で帝国では珍しい濡れ烏の髪を持つ。

 容姿や服装は娼婦といった感じだが、皇子の奴隷――財産だけあって、非凡なる能力を有している。

 また主に対して棘を刺す程度の嫌味を言ったり、中々の食わせ者。

 コリンズ・サンク・コンスタンツ(16歳)

 褐色の肌に灰色の髪を有する南方帝国の皇子。

 奴隷王の異名に違わず、自らの周囲を有能な奴隷で固めている。もっとも、単に忠実で優秀な部下が欲しいだけなので相手の身分や年齢、国籍すらも問わない様子。

 事実リンクのことも奴隷として欲し、断られるや否や今度は軍師として勧誘する。

 コート・オブ・アームズは武具に埋もれた翼獣。

 

 シリアナ(17歳)

 コリンズの奴隷。亡国の王家筋だが、生まれた時から奴隷だったので本人にその自覚はない。

 かつては愛玩奴隷として悠々自適に生きていたものの、主がコリンズに代わるや否やその生活は破綻。彼の無茶ぶりに応える形で、血筋に見合った才覚を発揮していくことになる。

 もっとも、生まれながらの奴隷にありがちな「物言う道具」の自覚が強い為、彼女はそのことに対して微塵も感謝していない。むしろ、やるべき仕事が増えたと文句を言っている。

 帝国では珍しい赤毛と緑の瞳を有する。

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