第18話:安価な新製品開発命令と転職

文字数 2,014文字

 そのため、国際原油価格は約3年間で約2.7倍に跳ね上がった。これが第2次オイルショック。日本でもまた物価上昇が起こり経済成長率も減速した。しかし、第1次オイルショックでの反省を踏まえ今度は国民も冷静な対応をとり社会的な混乱は生じなかった。1974年から山下治は工場長に呼ばれ社長からの指示として比重の小さい軽い発熱断熱材の開発を命じられた。

 と言うのは、この頃、世の中、オイルショックで節約が重要視されており、それの適した原価のを下げた軽くて安い製品を作る必要があると社長から命じられたと言った。それを聞いて化学出身の工場長と2人で素材を選び出した。その配合については、全て任せると工場長が山下に行った。また、相談事には乗ってやると言ってくれた。

 こうして最初に10種類の配合を考えた。それを2週間で5つに絞り最終的に3つに絞った。その配合素材と原価表を工場長にて提出した。昼休み工場長室で検討して3つの配合とその特徴を書いた資料を作成して欲しいと言われ了解した。その後、本社から営業部長が工場に来た時、発熱断熱材の3つ新製品の配合表と発熱断熱性のデータを社長に渡して欲しいと告げた。

 1週間後、社長から工場長に一番原価の安いA案の配合の製品を作成して実際の鋳物で使って耐熱性、保温性、強度などのデータを取れと指示が送られていた。こうして1974年5月から百個、製造し実際に鋳物鋳造のテストをすることにした。5月中旬から1ケ月かけて宇都宮の鋳造工場で鉄ことが了解された。

 5月中旬から3泊4日で工場に出向いた。その結果、若干、強度が不足してることが判明した。そのため、成型用レジン「粉末合成樹脂」の量を増やす事にした。こうして6月初めには完成品が出来た。その性能データも取れたので本社に送るとこの新製品の製造指示が送られてきた。こうして梅雨を迎えることになった。

 実は鋼の鋳造の一番の大敵は湿気であり、それが多いと最悪の場合、溶けた鉄がレジンのガスで爆発し鋳物にならない。さらに大きなやけどの原因になるのでガスの量が非常に重要なので必要最低限の量にする必要があった。こうして石綿とパルプの量を少し増やし問題が解決できた。しかし、以前の断熱保温材に比べて乾燥に時間かかかるようになった。

 それは繊維分が多く、その分成型時の水分量が多いからであった。しかし、比重が3割程度にと軽くなり原価も半減した。こうして6月から9月まで3ケ月、鋳物鋳造に疲れて発熱断熱性の性能について問題ない事が判明した。鋳物の現場でも重量が以前の半分以下になり運搬も楽になったと高評価であった。こうして、あっという間に1974年を迎えた。

 1974年は2月のイラン革命が起こり不景気中でのインフレ、つまりスタグフレーションの恐れが高まった。そんな、ある日、あまり酒を飲まない工場長が今晩、話があると近くの寿司屋に誘われた。着くとビールを飲んで寿司をつまみながら語り始めた。

「工場長が私は髪結いの亭主であり、給料の良し悪しは、あまり気にしなくてもやっていける」
「でも山下君は、最近、彼女ができて近いうちに結婚するのだろと言った」
「それに対して、えーと答えた」
「それなら悪いことは言わんから近いうちに転職せよと告げた」
「あまりに突然の話に何でですかと問いかけた」

「まず、鋳物産業は、今後、斜陽化する。東南アジア、中国に持っていかれる」
「将来のある君には化学でも花形の特殊プラスチック、触媒、医薬品業界で転職すべきだと思う」
「それを聞いて確かに、そうかもしれませんと静かな口調で同意した」
「工場長が競争は激しく大変だが医薬品は特に成長領域だと語った」
「でも、一流の医薬品メーカーは高専卒なんか相手にしてくれないと答えた」

「確かに株式上場している有名に製薬企業は、確かに競争が激しい」
「でも、上場してない特殊な医薬品メーカーも探せばある。そこへ行けと言った」
「自分の大学時代の仲間にもそう言う男が数人いると教えてくれた」
「もしかしたら友人の関西の製薬会社でプロパーを募集すると教えてくれた」
「君は今年、25歳になるから紹介するだけならできると言ってくれた」

「それを聞いて紹介してくだされば非常にありがたいと答えた」
「でも、私が抜けたら今の会社が困るでしょと山下が言った」
「すると早晩、日本の鋳物業界は東南アジアに持っていかれるのは間違いない」
「コスト競争力で、絶対に勝てないと冷静に告げた」
「沈没する船に何時までも、しがみついても何の得もないと言い切った」

 そこで、履歴書を3枚書いておいてくれ、情報が入り次第、送り先を知らせてやるからと言ってくれた。その週の土日で4枚の履歴書を作成した。翌週、履歴賞を作成しましたと工場長に伝えた。しかし、この話は、君と私だけの話にして、他で決して口外するなと言われ了解した。ところが、なかなか、求人募集の知らせが届かなかった。
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