第14話:田舎でのお見合い事件

文字数 1,998文字

 近所の電信柱に、尋ね人の張り紙まで出るようになった。数ヶ月して突然、彼らの消息が、わかった。それは金が底をついて発送部長が、電話で、奥さんに泣きついてきた。パートのおばちゃんも、無事見つかった。しかし、彼女は、これがもとで旦那さんに離縁されて東京の方へ流れて行き、水商売して生活をする様になったとの事だった。

 発送部長は、さすが、もと営業マン奥さんに手をついて土下座して、あやまり時間がかかったが元の鞘に収まった。ただし、その後は、しっかり手綱をしめられて一週間の小遣いしか、もらえなくなったそうだ。さすがに、これでは何もできないであろう。うまい兵糧攻めだった。この工場の周辺は、ほとんどが農家と商売人の家が多く専業サラリーマンは少ない。

 ほとんどがサラリーマンとの兼業農家だった。そのため、この地域の女の子多くは都会に出ていくか地元の大規模農家か商店の男子と見合いをして結婚していた。そして近くの商売人の家から我が工場の大卒、高専卒の技術屋さんに見合いの話が年に数回、舞い込んできた。山下先輩は、すでに三回、経験したが、話が合わないので、お断りしたそうだ。

 そんなある日、山下に見合いの話が舞い込んだ。地元の農機具販売店の娘、二十一歳で短大を卒業して自宅で経理をしているとの事だった。工場長から言われた話なので、むげに断れず見合いをする事となった。その当日、その娘の父親が外車で工場を訪ねてきて山下を乗せて近くの高級料亭で、その娘と会う事になった。

 始めて会った印象は気の強そうな気位の高そうな好きなタイプではなかった。体型も山下の好きなグラマー系ではなく細くて足の短い典型的な日本人体系だった。工場長と山下が彼女のご両親と面会して、ありきたりの会話を始めた。そして、彼女の父親が、家の跡取りが、欲しいので是非、手伝って欲しいと言いだした。

 あまりの強引さに、まだ彼女に初めて会ったので、そんなに急に言われても困ると伝えると父親も笑って、そりゃそうだと言った。こんなに強引に、結婚させたいのには何か、あるなと察知した。その予感が後になって見事的中する、事件が起きた。初回の見合いでは、形式通りの会話で二時間程度で終了した。一週間後、近くの駅の喫茶店でデートをする段取りまで彼女の父親が決めていた。

 特に断る理由もないので会うことにした。デートの当日、彼女は白いブラウスと空色のスカートで現れた。山下は、めったに着ないスーツを着ていった。天気の話から入り少し雑談した後に彼女が、なぜ何故見合いに、いらしたのと聞くかれた。そこで工場長に世話になってるから簡単に断れなくてというとニヤッと笑った。

 そして続けざまにと言う事は、お見合いに興味がないと言う事ねと続けた。誠に失礼ながら山下は自分のタイプではないとはっきり言った。すると彼女が安心したように、あー良かったと言うではないか。さすがの山下も、これには怒りを覚えた。良かったというのは、どういう事ですかと、きつく言った・

「彼女も、あなたこそタイプじゃないと言ったじゃないですかと反論した」
「そのうちに何かおかしくなって、お互いに笑い出した」
「そして山下があなたには彼氏がいると言う事ですねと聞いた」
「すると、お茶目に、その通りだとい告白した」
「その彼氏は父の会社に出入りしている農機具メーカーのセールスマンだと言う」

「彼は良い人何だけれど気が弱くやさしい性格で営業には向いてない」
「また、父の最も嫌いなタイプだと言った」
「さらに彼女は、話を続けて、彼は、彼女が、いなきゃ駄目なのと言う有様だった」
「それを聞き、彼女の方が彼に惚れてんじゃないかよと心の中で叫んだ」
「こりゃ駄目だ!こんな茶番劇につき合っては、いられないと思った」

 そこで山下は彼女に、どうしたら良いのですかと質問した。すると、さっきあなたが言った言葉、娘さんはタイプではないと、おっしゃれば良いのよと笑いながら答えた。わかった早速、明日にでも工場長の方から、その様に伝たえてもらうよと返答した。その後、彼女は胸のつかえが取れたのであろうか、晴れ晴れとした顔にもどった。

 翌日、工場長に、お断りの電話を入れてもらった。その数週間後、見合いをした娘さんが、誰かさんと、駆け落ちして、姿が見えなくなったそうだった。心の中で彼女に、うまくやれよと励ます山下だった。それは夏の暑い日の事だった。突然、我が工場に大きいアメ車が入ってきて、車からサングラスをかけて、めっぽう怖そうな大男が降りてきた。

 工場の従業員は大慌てで工場二階の工場長の部屋へそれを伝えに来た。そして工場の庭に出て、工場長が彼に話かけたら、この工場で雇ってくれと言った。そこで工場長が履歴書を書けば面接はしますよと答えた。彼が履歴書、そんなもんないよと言い、それなら採用できないと言うと、そこを何とか、頼むよと言いだした。
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