第9話:高専も専門課程から卒業へ

文字数 2,142文字

 その憧れがコンピューターに向っていった。そして数年後に日本で最初のマイコンを買う事につながった。高専に入り時間ある時には秋葉原に出かけ最新のオーディオ機器を見て触れて最新情報を入手。試聴室で気に入った曲を聴く事が好きだった。当時、好きだった曲はヨーロッパのサウンド・トラック、レイモン・ルフェーブル、ポールモーリア、パーシーフェイスなどだった。

 当時、有名な国産スピーカーはヤマハ、オンキョー、デンオン、三菱、サンスイであった。米国製ではJBL、欧州製ではタンノイなどだった。その中でも、山下は、JBLの大ファン。その後、バックロードフォンという特殊な形状の高効率、高能率のスピーカーが流行りだして山下も作成キットを買い作ってみたが部屋が六畳と狭くメリットを十分に生かせなかった。

 高専も4年になり専門課程に入り、専門課程に入ると、まず、自分の望む、専門領域を決めなければならない。この学校では、専門の研究室が高分子化学、無機化学、化学工学、物理化学4つあり、その中で、山下は、臭いが苦手で化学合成系の面倒な実験が嫌いだったので高分子化学、無機化学を対象から外すと化学工学、物理化学」のどちらかに、しなければならない。

 本音ではどっちでも良かったが、研究室で指導する先生の性格と自分の性格の相性で決めることにした。化学工学の松島悦郎先生は理論派のエリートで冷たい感じであり、好きでも嫌いでもなく、化学工学は計算式が多く理論を構築しなければ、解けない難問が多く、好きな学科であり、実際にこの分野では常にクラストップであった。

 もう一つの物理化学も理論的に仮説を立てて計算式を考えて解く学問で化学工学に似ていて、これもトップの成績であり、この分野が、得意だった。ところが、この研究室の山下哲彦先生は個性的で、人間味があって、多分に気分のむらがあり、のってる時は素晴らしく理論構築もあざやかで天才肌。しかし、気分が落ち込んだときは、早退したりして使いものにならない。

 また、良く、女性に恋をして、ふられて落ち汲む、立ち直って、素晴らしい仕事をするという学校でも異彩のエリートだった。学生の人気は、今ひとつだったが、山下治は、その人間味あふれる人柄が好きで時に、からかったり時に考えが違うと激論を交わしたりしていた。ある時、山下先生と激論を戦わせてそれが終了した時、珈琲をいれてくれてた。

 おい、お前、俺の研究室に入れと言い、続けて俺は型どおりのエリートって大っ嫌いなんだと言った。そして、人間はいつか死ぬんだ。それまで燃え尽きるまで学び他人と激論を交わしてくんだ。だから、面白おかしく一生懸命に残りの2年間の専門課程をやっていかないかと物理化学研究室に入れと誘われた。話していることに理論的構築は一切ない。

 ただ感性のみの発言で話してる意味も良くわからない。しかし、何か、熱いものを感じると思った。その瞬間、山下治が、その先生の全然、理論的でない感性が好きだと言った。そして物理化学研究室に入ることを決めたと伝えた。その話を聞いた山下先生が良かったと言い俺は頭でっかちのエリートって奴が嫌いで、すぐ腹を立てる習性があるんだ。

 だから、お前のように俺の感性をわかってくれる奴に来て欲しかったと言った。本音を言うと成績の良い学生が1人もいないので困っていたので、ありがたいと言ってくれた。何故か山下は感極まって山下先生と堅い握手を交わして、お互いに頑張っていこうと言ってしまった。その後、山下先生がユニークなベクトル理論を発表した。

 内容は男と女の間にはベクトルがあって、その方向性と、力によって、その二人が結婚するかどうかが決まるとい言い、最初、みんなは馬鹿にして相手にしていなかったが真面目な顔で、それを証明してみせると意気込んでいた。先生が、そのベクトル「大きさだけでなく、向きも持った量の事」を測る装置を真剣に作ろうと考えて試作品をつくって実験を繰り返した。

 しかし、そのベクトルの力が小さすぎるので理論的な話ばかりで実用段階まで行かなかった。四年になり中間、期末テストの範囲が専門分野に絞られてきた。山下は元々好きで入った化学科という事もあって専門分野の学力が、かなりついてきた。三年まで化学科の中でライバルに一般教科では負けており、常に二位で悔しい思いをしていた。四年になって逆転し念願のクラストップ。

 最終的には、主席で卒業する事ができた。しかし研究室全体で見てみると物理化学研究室は各研究室の中でビリか、その一つ上でだった。と言うのは化学において有機化学系、高分子化学が当時、花形であり物理化学は理学に近く即実践に使える工学系とは言い難い分野であり、そのため、目的を持たずに何となく物理化学研究室に入ってくる者が多かった。そう言う訳で他のメンバーが平均点を下げてくれた。

 卒業式の後、各科の総代が学校の関係会社のM財閥の機械、電気、化学会社のトップと面会して、今後、社会に出てからの抱負を語る習わしのため、山下は世界で一番の工業国家・日本の化学の分野での一翼を担いたいとか日本の未来の為に貢献したいとか歯の浮く様な事を言った。今考えれば、大それた事を言ったと後悔している様だ。
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