第3話:市営住宅に当選と中学生活

文字数 2,073文字

 医者から当分、学校での運動は禁止と言われた。そのため、運動不足で、ぶくぶく太って肥満児になった。その後、住んでいる改造した納屋が手狭になり5キロ離れた海沿いの漁師町の漁師小屋を改造して造った貸家を安く借りた。この頃、父が早めに帰ってきた日には、近くの防波堤で釣りをして、あじ、たこ、いか、しゃこ、さばと多くの魚が食卓に上る様になった。

 それにより以前より豪華な食事にありつけた。特に鰺は便利な魚で大きいものは、さしみ、塩焼きにした。小さいものは揚げ物にして食べた。特に、いか、たこ、しゃこが取れた日は父が上機嫌で、さしみ、煮付けにして食事を取ったり晩酌をして大喜びだった。その頃、山下治の母が市営住宅に何回も応募し、それが遂に当選した。

 こうして横浜市北部にできた市営団地の2DK木造の2軒長屋に引っ越した。近くの駅からバスで20分の新しくできた市営団地で低収入者の家賃は月、五千円と記憶している。山下治は木造平屋2DKの木造二軒長屋で生まれて始めて風呂付きの家に感動した。小学校は家から徒歩20分で地元の農家と団地の子供が多かった。

 その中で地元の大地主の息子の仲間に入れてもらい彼の家で仲間達と家の中を走り回っては、その家の人に怒られた。ただ仲間は非常に仲が良く脳天気な連中でいつも楽しかった。たまに小学校の廊下のガラス窓から仲間で昼食後、内緒で学校を逃げ出して近くの原っぱで遊び回っていた。

「ある時、友人と通信簿を見せ合った事があり、山下、おまえ頭いいんじゃん!」
「だって通信簿の成績が1と2ばかりだぞ!すげー!」
「かけっこでも1等、2等は、良いと決まってる!と明るく笑った」
「しかし実際は逆で家でも学校でも馬鹿だね!」

「でくの坊!役立たず!か言われる毎日だった」
「特に音楽の時間で歌を歌わされるのが一番苦痛だった」
「先生に歌を歌う様に指示されても絶対に嫌と6年間一度も歌わなかった」
「そのため、音楽の通信簿が一になるのも当然であった」

「図画の時間も最悪で絵を描けといわれた山に夕日が落ちる絵を描いた」
「しかし真っ赤に見えたので迷わずに赤一色で全部塗ってしまった」
「鉛筆で書いたはずの山の輪郭が全く見えない、ただ画用紙を赤く塗っただけになった」
「この絵を見た図画の先生が山下治に対して私を馬鹿にしてるのかと頭をたたいた」

「それ以来、今後、一切、絵なんか書くもんかと心に決めた」
「小学校卒業、間近なり親が学校の教頭先生に呼び出された」
「こんな子は早いうちに何とかしないと不良になるかも知れない!」
「馬鹿だから中学生になれないとさんざん脅かされた」
「しかし、何故か仲間達全員、中学校へ無事入学する事が出来た」
 
 ただ一番の親友であった大地主の息子は慶応中学という私立の名門校に入学し別れていった。風邪の便りで、その後、慶応大学の医学部に入り外科の先生になった様だ。確か彼には家庭教師が付いていたし元々賢かった。いたずらのシナリオは全て彼のアイディアだった。そして4月に残りの仲間と一緒に中学に入学した。

 中学校は出来たばかりの中学校で鉄筋の真新しいクリーム色の校舎だった。当時、新品の学生服で通ったのが特にうれしかった。やがて中学に入って、お医者さんから運動禁止が解除され山下治は陸上部に入り毎日2キロを走る事にした。そのお陰で体重は70から60キロへと減量し最終的には52キロまで落ちた。そこで陸上部の走り幅跳び選手になった。

 そして、区の大会に出場して8位の成績を取った。勉強は依然として苦手で親の方が真剣に悩んでいた。そこで母が近くに住む母の友人の娘さんが横浜市大に入ったという話を聞いて家庭教師を頼みに行った。その娘さんの都合を聞き空いてる時間にその方の家へ行った。そして、週に2回、1時間ずつ、教えてもらえる事になった。

 その先生は、まず山下に英語でも数学でも何か興味のあるものを探しなさい。それについて徹底的に勉強すれば他の事もわかってきますからと言ってくれた。彼女に言われた通り、やってみると英語は日常英会話が好きになり徹底的に暗記していった。次に数学、方程式に興味を持ち、特に力を入れた。国語では小説を読む事が好きになり多くの本を読みまくった。

 先生が読書家でトルストイ、ドストエフスキー、ショーロホフなどを読む様、すすめてくれ、更に、先生の持っている本を無料で貸してくれた。何もわからず、言われるままにトルストイ「戦争と平和」「アンナカレーニナ」ドストエフスキー「罪と罰」「静かなるドン」ショーロホフを読み込んだ。 その中でも印象的だったのは「静かなるドン」

 静かなるドンは第一次世界大戦・ロシア革命に翻弄された黒海沿岸のドン地方に生きるコサック達の力強くも物悲しい物語で多くの事件が巻き起こった。コサックたちの生きざまに感動した。頭脳明晰ではあるが貧しい元大学生ラスコーリニコフが一つの微細な罪悪は百の善行に償われる「選ばれた非凡人は、新たな世の中の成長の為なら社会道徳を踏み外す権利を持つ」という独自の犯罪理論を持った。
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