第10話:入社と退社、田舎の工場に就職

文字数 2,114文字

 高専を卒業して、学校推薦で大手化学メーカーの研究所に就職する事ができた。自宅からバスを乗り継いで60分の所に、その研究所はあり仕事は、あらかじめ年間計画が立っていた。そのため決められた実験を同じ手順で行い報告書を提出するだけの仕事だった。山下の考えを差し挟む所は全くない。そして10時のおやつがあり30分の休憩、15時も同じ時間が設けられた。

 まるで幼稚園様で勤務態勢が気に入らなかった。次に気に入らなかったのは研究員の女性だった。目を見張る様な美人がいないどころか、みなエリート意識が強いのか、ツンツンしていて全くかわいらしさ、色っぽさがない。もちろん付き合いたくなる様な、いい女は1人もいない。全く反対のタイプの女性ばかりだ。そのため、働く意欲を失うのに時間が、かからなかった。

 そして一番、嫌だったのは、全く自分の実力を試す場所がない事だ。入社、数週間後、飲み会に誘われ様になった。参加してみると最初は一番エリートだと自画自賛してる東京の名門と呼ばれる国立大学のグループの歓迎会だった。新人たちを見下した態度が気にいらず、それ以後、一度も行く事はなかった。数日後、また、別の飲み会に誘われた。

 ここは第二グループで、やはり、東京の有名私立大学のグループだった。その他に、第三のグループ、地方の国公立、私立大学と高専のグループで、人数は一番多いグループで、しつこく、さそわれた。みんなで結束して地位向上を図っていこうとか訳のわからない事ばかり言う変なグループだった。要するに学閥の仲間に入れてやるということであった。

 それには全く興味がないというよりも反吐が出るような連中の話が嫌でたまらなかった。そのため、半年程して学校の推薦入社の会社に辞表を出すという傍若無人の行動に出た。退社後、まもなく第一次オイルショックがおこり就職活動は超氷河期になった。良い条件の就職先がなくなり、これが天罰なのかと落ち込んだ。

 何とか就職できた先は日本でいちばん大きな印刷会社の子会社でインク製造の会社だった。その当時、今で言うブラック企業ばかりで、この会社も基本給料と同等か、それ以上の残業手当が出る程、残業が多い会社だった。具体的には月間の残業時間が200時間を超える。わかりやす言うと毎日、夜十二時過ぎても働かされた。

 こんな条件で長時間労働させられると、いくら柔道で鍛えた頑丈な身体といえども1年も持たなかった。その後、同期の高専卒の連中8人が入社したが毎月、退職者が出て半年で同期の高専卒の仲間7人が全員辞めた。最終的には、山下が最長11ケ月働き高専卒の連中で一番長かった。山下は体力だけは自信を持っていたが二回目の検診で血尿が見つかり入院した。

退院後、上司に呼ばれ、残業ができなければ、辞めてくれないかと、言われる始末で、嫌気がさして、すぐにやめた。辞めるときに総務部長が、小さな声で大阪に新工場を建てる予定で、君たちを雇ったのだが、その工場建設の予定が、この不景気でなくなってしまったために、苦労をかけて、すまなかったと謝ってくれ、これが真相だったようだ。

 その後、新聞広告を見て、次の会社に就職する事になった。そこは千葉県のはずれの鋳物関連の化学製品メーカーだった。社宅付きという事で、単身で赴任した。その会社には、大卒の機械専攻の先輩が2人が、機械のメンテナンスを行っていた。技術課長の六歳年上の山下先輩。機械修理担当の木下先輩だった。化学専攻の大卒の十歳の年上の八木工場長が製品検査をしていた。

 その会社に入社した。山下の使命は、新製品を三年以内に開発する事だった。実験の計画、化学薬品の購入、管理、新製品の性能実験も全て任せると言われた事。こら等の条件は責任は大きいものの、非常にやりがいがあると思い入社した。その後は、色んな材料の素材の性能試験を最初に半年間で行った。次に、その材料を混合できるか調べた。

 混合物の性能試験で半年、一年過ぎた頃、新製品候補が、五種類出来上がった。今度は、その燃焼試験「性能試験」をして三種類に最終候補を絞り込み新製品を世に出す計画だった。さて仕事以外の話もする事にしよう。この工場は千葉の田舎で最寄りの駅まで車で40分という陸の孤島だった。その工場敷地の中に研究室と三軒長屋と別棟一軒の四軒の木造の社員社宅があった。

 別棟に技術課長の六歳年上の山下先輩が暮らしていた。機械修理担当で三歳年上の木下先輩が、私の隣の部屋に住んでいた。山下先輩は、東京六大学出身で、訳あって夜学を卒業したようだ。コックのアルバイトも経験していた様で料理がとても上手だった。休みの日には、ポークソテー、ビーフカレーとか旨い料理をごちそうしてくれるのが最大の楽しみだった。

 離れの社宅は三部屋で、妻帯者用としてつくられていた。そこの六畳の部屋に、麻雀台と四つの椅子を買って来て、仕事を終えた後や休日に麻雀をして楽しんだ。その時は、十二才年上の、この工場唯一の営業担当、坂井先輩が得意先から帰ってきて、よく参加していた。本社から来る、いけめんの本社の営業部長も、よく誘ったも。これが一番の息抜きになった気がする。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み