第13話:4Hクラブ忘年会と工場での駈け落ち事件

文字数 2,051文字

 突然、吉田君が、絹子さんに近づきて俺とつき合ってくれといった返事は、まだもらってないぞと言った。それに対して絹子さんが、そんなに急に言われたって困っちゃうと言い下を向いた。また牛島君が、そー女性達を困らせるなよと、ちょっと、おどけて言った。それに対し吉田君が牛島さんは、この地区一番の大地主で一番儲かってる大農家だから女の子も他の農家の人も一目おいてる。

 また、女の子に不自由してないから、そんなこと言ってられるんだよ。吉田君が、うちらみたいな小さくて貧しい農家は日本人の奥さんが来てくれなくてフィリピン、中国、ブラジル、ベトナムなどの農業研究生の女の子を嫁にもらっているんだ。こんな気持ちは、わかりっこないと、吐き捨てるように言った。

 続いて石島君が君子さんに牛島とうちとでは規模も違うし収入も違う、やっぱり俺じゃ嫌なのかと大きな声で言った。すると君子さんは、そんな言い方しかできなの男らしくないじゃないと言い返した。その場の空気が凍り付きそうになるのを見て山下が4Hクラブって、いいね近くて女の子を調達できてと、ちょっと、ふざけた口調で言った。

 おれらサラリーマンは自由競争という名の下に男も女も自由競争、つまり、なかなか落とせねーって事なんだよ。これには会場から笑いが飛んだ。その後、そんなしけたこと言ってねーで、そこのステレオにレコードかけて歌って踊ろうぜと言い大石君がレコードをかけた。グループサウンドが、ながれ、山下は、君子さんの手を取って踊り出した。

 それを見ていた大石君や山下君など若手が峰子さん徹子さんと踊り出した。そして場の雰囲気がようやく暖まってきた。牛島君が驚いて、さすが都会っ子スマートだねと言った。実は山下は本当は君子さんが一番気に入って誘った。君子さんは山下のリードに上手く、あわせて踊っていた。歌の途中で石島君に気を遣い君子さんの相手をかわった。

 しかし、石島君が、俺、ツイストしか知らないと言うので、二人でツイストしたらと言った。ぎこちないがツイストを踊って楽しんでいた。つぎの曲は「チューリップの魔法の黄色い靴」を吉田君がレコードに合わせて歌った。その後、「心の旅」も上手に歌い上げた。それをびっくした目で見ていた絹子さんが大きな拍手を歌い終えた吉田君に送った。

 これには、吉田君も大喜びで笑顔で頭をかいていた。次に夢子さんが「加藤登紀子の知床旅情」を歌ったのであった、彼女は音感も声も良く、非常に感動的に歌っていたのが印象的だった。次に峰子さんが「京都の恋」をリズムに乗って歌った。数人が歌に会わせてツイストを踊っていた。続いて牛島君が「さらば恋人」をコミカルに歌い出した。

 そのひょうきんな姿を見て会場から笑いが出た。そして、山下君、次に、歌ってと言われたので、沢田研二の「シーサイド・バウンド」を歌ったので会場は大盛り上がりとなった。会場から「君だけに愛を」のリクエストが来て、続けざまに歌った。山下は、少しつかれたので休んでビールを飲みに行った。そこへ牛島君が来て盛り上げてくれたありがとうと礼を言った。

そこで、山下は、しんみりした忘年会なんて嫌だからねと答えた。こんな工場でも、色んな騒動が起きた。最初に思い出されるのは工場の発送部長(四十代)とパートのおばさんの不倫事件だった。発送部長の奥さんは、同じ職場で、庶務・経理・事務をやっていてた。その問題となったパートのおばさんは山下が見ても工場一の美人であった。

 特に、その色気は、すごく脇を通り過ぎるだけで甘い香水と色気で、ほとんどの男どもが振り返った。ある日、発送部長が運送屋さんの所へ運賃の交渉に行って留守の時に問題が発覚した。発送部長の車に、そのパートの人が乗っているのを見たという近所の人が現れた。田舎では、そんな噂は、すぐ広まった。

 その後わかったが仕事途中で人里離れたモーテルでしっかり逢瀬を重ねていた事が発覚した。噂が奥さんの耳に入り旦那を工場中、追いかけ回して大立ち回りをした。工場長が発送部長に事の真偽を聞くと、まず俺はそんな事はしていないの一点張りだった。奥さんは旦那が精力絶倫で、やりかねない人だ、疑ってかかって犯人扱をしていた。

 その騒動の件で、あの色っぽいパートのおばちゃんが退職した。これには山下も若い男性達も皆、残念がっていた。工場のアイドル的存在がいなくなるという事は仕事の一つの励みがなくなった事になる。そして数週間がたち、あの騒動の話も忘れ去れようとした時に次の事件が起きた。発送部長と、あの色っぽいおばちゃんが同時に消えたのだ!夜逃げだった。

 近くの警察のおまわりさんまで出てきて捜索に駆り出された。こういう時には、いろんな噂話が、まことしやかに広まるもので、いろんな面白い噂が飛び交った。駆け落ちして海外逃亡。または都会で潜伏してるとか中には心中を図ったのではないかとか、いろいろあった。実際に近くを流れる利根川と江戸川を警察が調べた様だが死体は上がらなかった。
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