第12話 ワイン

文字数 1,628文字

 どういうわけか、ワイナリーで買ったワインだと具合が悪くならないのに、スーパーや酒屋で買ったワインを飲むと悪酔いする。ドイツにいたときは毎週のようにワイナリーをめぐっていたのに、こっちにきてから、ほとんどワインを飲まなくなった。

 近所に、ワイナリー直営のバーができた。

 あんまり期待していなかった。というのも、ここに来たてのときに車で一時間くらいのところにあるワイナリーに行って試飲をした。けれどそこにあるのは「ピーチ味」「ラズベリー味」「ブラックベリー味」そして季節の味覚、「パンプキンスパイス味」。
 なんじゃこりゃ、と思ってしまった。普通のワインもあるにはあるけれど、ポートワインが一本三十ドル。ほかのフルーツワインは十ドル前後なのに、と思うと、がっかりしてしまった。特においしいかと言われると、三十ドルにしては高い、というのが正直な感想だった。
 フルーツワインも甘くておいしいのだけれど、香りがとても強いので、香料をつけているのか、と思ってしまう。なにせ、肉屋だって、「来週からベーコン売り出すんだ。スモークエッセンス振りかけて味をつけて……」などと普通におっしゃる。

 話はそれたが、旦那の職場の人や、イヴォンヌまでそのワインバーの話をする。ノアの担任の先生は、学校が終わったらそこでバイトしているという。それほど有名なところだ。

 旦那の職場は飲みニケーションがさかんなのだが、そこをよく使うので会員になった、という。二人分の会費が三十七ドル。月に二回、無料でワインテイスティングがあり、ただでワインを二本もらえる。なんか、お得な香りがプンプンする。特に今月は旦那の誕生日なので、食事代が十五パーセントオフだという。
 行かない手はない。
 ワインテイスティングは一人2オンス(約三十ミリリットル)を二杯、と言われていたのに、2オンスが八杯出てきた。そこですでにワイングラス二杯分。そこでは、どのワインをもらうか決められず、食事と一緒に別のテイスティングを頼む。そこで十八ドル。4オンス(約六十ミリリットル)が4杯。
 年も取ってきて、酒量が減ってきているところの、この量。かなり酔ってしまった。

 しかし考えてみると、あのワイナリーは一体どうやって採算をとっているのだろうか。今回は食事とレストランでの試飲をしたからそこで利益が出るとする。でも、料理は前菜がブラッセルスプラウト(芽キャベツ)を真っ茶色のしわしわになるまで素揚げしたものに、メキシカンソースをかけたようなもので、メインはステーキとマグロのタタキだった。冷凍食品を使っている気配はないので、原価を節約しているようにも見えない。値段もすごく高いわけでもない。
 もし料理を頼まずに会員特典だけを使えば、ワイン四杯分に一本二十ドル程度のワインを二本、タダでもらえる。それだけで、赤字じゃないのか。
 たとえば、みんなが大好きな量販店、〇ストコは、現金で大量買いしたものに必要経費を乗せた分だけの価格で商品を販売し、利益は会費で賄っている、というのは有名な話だ。けど、このワイナリーはどうなんだろう。
 飲食店を継続するためには、原材料費を三十パーセント以内に抑えないとやっていけない、という話を聞いたことがある。ということは、ワイン四杯とワイン二本の原材料費は十二ドル程度、ということになる。ちなみに、ブドウは世界各地から取り寄せているという。それで、そんなに安く上がるものなのだろうか。
 お店はとてもきれいだし、インテリアもおしゃれだ。ワインのレーベルも美しいし、従業員はワインの知識もある。安そうな気配は一つも見えない。おまけに、へべれけになったのに、悪い酔いも、吐き気も二日酔いもない、私にとっては、ありがたいワインだ。
 一体、このワイナリーの利益はどうやって、どんな感じで出ているのだろうか。
 そんなことを知っても、私の生活に影響を及ぼすわけではない。なのに、それのことが気になって仕方がない。
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