【七十二.カウンセリング・八】

文字数 999文字

 今令和何年? 何月何日? 何曜日? 今何時? わたし何歳だっけ?
 真っ白。真っ白な部屋。天井から床まで、全部真っ白。カウンセラーの先生の白衣も真っ白。
 全てが明るいこの部屋で、わたしは両手で肩を抱いて震えている。

「なにが、見えますか」

 赤い縁のメガネが良く似合う、カウンセラーの先生が、いつものように聞く。

「かいちゃん。わたしだけの、二歳のおとこの子」

 かたかたかたかた。

「なにをしていますか」
「お母さんと……かおりさんと一緒に、幸せそう」

 かたかたかたかた。

「あなたは、なにをしてますか」
「窓の外から、じっと見てる。……寒い。とっても。もう冬になるから。八王子の冬は、とても寒いから」

 ……そっか。このかたかた言う音、わたしの歯の音だ……
 寒くて寒くて……震えが止まらない……

「どうしたいですか」
「入れて欲しい。見てるだけなんて、いや。かいちゃんを抱きしめたい」

 ねえ、入れて……入れてよかいちゃん。お姉ちゃん、かいちゃんを抱っこしたいの。昔みたいに……大好きなの……ねえ……

「かいちゃん、かいちゃん。またピンクのくまのワンピース、買ってきたよ……ねえ、かいちゃん」

 ……

 ねえ、またレジンのボールであそぼうよ。おねえちゃんあのボール、かいちゃんによくにあっててかわいいとおもうの。

 ねえ、まただっこしたいよ。そんなになかないでよ、かいちゃん。かおりさん、どうしてそんなにこわいかおしてるの?

 ねえ、どうしてこうえんにこなくなっちゃったの?
 びょういん、たいいんしちゃって、いくとこないよ、おねえちゃん……
 ずっと、ずっとまってたんだよ。
 おひさまがしずんでも。つぎのひになっても。
 ずっと。ずっと。

 だからさがしたよ。
 まよなか、しおやっていえ。
 ずっと、あるいて、あるいて。

 よくあさみつけたよ。
 しあわせそうに、おかあさんといっしょにでてくるとこ。

 ドアからでたとき、めがあったよ、かおりさんと。
 どうしてそんなかおするの。
 おばけをみたみたいな、そんなかおされたら、きずつくよ。

 ねえ、かいちゃんがすきなのは、おねえちゃんよね?
 だってこんなにすきなんだもの。
 まもってあげたいんだもの。

 だから、じゃまよね?
 いらないよね?

 かいちゃんにひつようなのは、おねえちゃんだけだもんね?

 ね?

 かいちゃん。

 ……

「なにが、見えますか」
「わたし。しあわせそうにかいちゃんをだっこする、わたし」
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