最強の射手だが寿引退を命じられた
文字数 1,415文字
捕らえた賊の首がポロリ…？
東国城内の医務室にて、国家機密の会議が行われていた。
膝に矢を受けて満足に歩けないアルアのために、国王自ら足を運んだのだ。
見張りの兵によると、獄中で首が取れてしまったそうです。
糸が解れたぬいぐるみの首が落ちるように、ポロリと。
男はそう言うと、お湯の火を止めた。
慣れた手つきでカップをそろえているが、執事ではない。
王国最強の七人に与えられる、最高階級七荊棘の一人。名はオージス。
何も情報は引き出せなかったということ？
はい。ただ、敵方に首を落とす恵愛者がいるのかもしれません。
恵愛者か……
（国王が頭を抱えるのもわかる。恵愛者。科学では説明できない力を持つ者。その存在を考えると、戦略的には何でもありだ。）
発動条件はあるのでしょう。でなければ、国中生首だらけですよ
彼は笑いながら、国王のカップにお茶をいれた。
ジョークのつもりらしいが、国王は顔をしかめたままだ。
だが、どういうことだろう！
お前のお茶は、母親のミルクだな
お茶を口に含むやいなや、顔がほころんだ。母に抱かれた赤子のように。
（一杯のお茶にそれほどまでの力があるだろうか？まさに科学では説明できない力。これぞ恵愛）
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オージス：【給茶の恵愛】心を和やかにするお茶を淹れることをできる
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アルア。交戦した射手について確認したいのですが
はい。ただ、敵射手の姿を見ていないので報告できることは何も
膝で受けた矢を射る時、違和感はありましたか？
膝の痛みの影響はなく、いつも通り……
それは、おかしい！
調整なしに正確に射れるのは、東国の規格にあった矢だけだ！
西国の矢を試射したことがあるが、あれであれば違和感に気づく！
手製の矢なら尚更だ。！
賊の正体は東国の兵士！？裏切り者か！
殺された兵から奪った武器の可能性もあるでしょう。
それでも、戦場で騙し討にあう可能性は減らせましたね。
ーーー
話し合いは続いたが、結局わかったことは下記2つだけだった。
・相手が恵愛者である可能性が高い
・相手は東国の武器を持っている
（矢からの情報はオージスさんがいなかったら気づかなかった。さすがオージスさんだ）
会議の結論を言う。「賊の討伐」は本来の予定通り、オージスに引き継ぐ！出発は明朝とし、備えよ！
オージスは深々と一礼をした後に、医務室を出ていった。
（オージスさんが選ばれた。国王は、賊と交渉の余地ありと見ているということか？）
……
（オージスさんは、私の短剣術の師。戦闘になったとしても負けはないだろう）
……
……国王陛下。私に何か用があるのでしょうか？
アルア。お前が助けた妊婦から「女の子が生まれたらお前の名前を貰いたい」と申し出があったのだが、どうする？
それは光栄です。
子供はいい
国の宝です
お前も母にならないか？
私は兵士です
その足。もう走れるようにはならないそうだな。
それでも矢は射れます！
「ある状況に限って」であろう？怪我人が戦場に出るということを考えなさい。
（戦場では何が起こるかわからない。満足に走れない兵が隊を壊滅させるなど想像に容易い）
それでも！
お前が国中を駆け回る本当の理由はわかっている。
母親探しは止めなさい。
恵愛者の親は父である国王のみ。母親はいない。
……
母を探すな。お前が母になれ。
……しかし、国王。私と結婚したい男がいるのでしょうか？
既に婿候補を二人選んでおる。国内最高の男を二人な。
それは光栄です
私はオージスさんの淹れたお茶を飲み干した。
