第13話:米国同時多発テロ

文字数 2,074文字

 この時点では、まだ「事故」か「事件」かは明言されていなかった。報道機関は1機目衝突の瞬間を捉えておらず、消防士の取材をしていたフランス人のカメラマンが撮影した1機目の映像も翌日まで放送されていなかった。ただ「ニュース10」に出演していたコメンテーターは、晴天時での不可思議な衝突という状況を理由として2機目衝突前からテロの可能性を指摘した。

 CNNでも同じような理由からテロの可能性が指摘されていたが、同時に1945年7月28日にエンパイア・ステート・ビルディングにアメリカ陸軍のB-25爆撃機が衝突した事故を例に挙げ操縦ミスによる突発的な事故である可能性も指摘していた。なお、この事故当時は深い霧が出ていた。

 また、CNNなどでは「ボーイング737などの小型の双発ジェット機」が衝突したと伝えていたものの英語の翻訳ミスからか日本では、この時点で「激突した航空機は小型の双発機」であるとの情報が報道されていた。しかし「小型」の根拠や「双発機」という語の解説がなされないなど情報が錯綜していた。

 ABCニュースの中継映像をそのまま放送していた「NHKニュース10」では、2機目の突入の瞬間が生中継された。映像では画面右側から飛行機が現れ、炎上する北棟「第1ビル」の真後ろに隠れるように見えた。そこには南棟「第2ビル」があり数秒の後、南棟を襲った巨大な爆発によって炎と黒煙が上がる様子が映し出された。

 画面を通して見れば、1機目の激突で炎上する北棟が2度目の大爆発を起こしたように見え、NHKニューヨーク支局の記者は単に「今、また爆発がありました」と伝えた。これに対して堀尾キャスターが「今、2機目の飛行機が突入したように見えましたが」と聞き返した。「ニュースステーション」では台風関連のニュースを伝えていた。

 その間に2機目の突入が起こったため、突入の瞬間は生放映されなかったものの、すぐに再びテロ関連のニュースに切り替えられた。この時、コメンテーターの萩谷順が「先週末からアメリカの情報機関により『中東のテログループが米国の利益を代表する建物ないし組織に対してテロを行おうとしている』との警告が流されていました」と述べている。

 22時20分頃、NHKは「旅客機がビルに激突したとみられる」と伝えた。22時30分、フロリダ州の小学校を訪れていたブッシュ大統領が演説で「明らかなテロ」と発言した。22時45分頃、「ペンタゴン『国防総省』が炎上」というニュースが各局で伝えられ、一連の事件が「同時多発テロ」であるとの見方が固まった。

 間もなく炎上するペンタゴンの映像が映し出され、爆発・火災の原因が3機目の旅客機の可能性があると伝えられた。旅客機がハイジャックされていたという内容の現地メディアの報道も日本国内に伝えられ始めた。これらの各ニュース番組では放送予定だった他のニュースより優先して、ニューヨーク・ワシントンとの中継映像が放送され続けた。

 時間「事件の拡大」とともに民放各社も次々に通常番組を打ち切り、臨時ニュースの放送を開始した。TBS系列では22時37分、放送中の毎日放送制作「ジャングルTV~、タモリの法則~」を途中で打ち切り「筑紫哲也NEWS23」を前倒しで開始。22時59分、世界貿易センタービル南棟が崩壊した。

 NHKではワシントン支局と中継を結んでいる間にそれが起こり、途中で手嶋龍一支局長の発言を遮るようにニューヨークに画面が切り替えられた。片方のビルが姿を消し大量の煙に覆われたニューヨークと路上から撮影した南棟崩壊時の映像が映し出された。これらの映像は二棟が重なるアングルであったため崩壊の程度が分かりにくかった。

 当初は「ビルの一部が崩壊した」とも伝えられていた。また、ワシントンの各所で爆発が相次いだという誤報が流れ、画面に「アメリカで同時テロ」の字幕が映し出された。23時28分、世界貿易センタービル北棟が崩壊。この時もNHKはスタジオを映していて2つのビルの崩壊の瞬間はいずれも中継されなかった。

 しかし、まもなく巨大な超高層ビルが上部から完全に崩壊してきた。そして、膨大な瓦礫と化してマンハッタン南部が煙で覆いつくされる衝撃的な映像が放送された。さらに23時40分頃には4機目「ユナイテッド航空93便」がペンシルベニア州西部に墜落したというニュースが伝えられた。

 NHKの堀尾アナウンサーは次々と起こる惨劇を報道する中で「大変ショッキングな映像ですが現実の映像です」と発言した。9月12日6時25分、世界貿易センターの第7ビルが崩壊した。8時30分ごろ、日本人大学生1人がユナイテッド航空93便に搭乗していたと報道された。

 9時30分からブッシュ大統領がホワイトハウスで行った演説が中継され10時20分から小泉純一郎首相、福田康夫官房長官が首相官邸で記者会見を開始した。13時50分ごろ、1機目激突の瞬間を撮影したフランス人カメラマンの映像が放送された。こうしてこの日もほとんどテロ事件関連ニュース一色となった。
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