第18話:リーマンショックでパニック

文字数 2,065文字

 2007年8月、BNPバリパ「フランスに本拠のある金融グループ」がサブプライム問題を深刻に受け止め、パリバ傘下のミューチュアル・ファンドが投資家からの解約凍結を発表したことで大混乱となった。かねてから懸念材料のあったサブプライム関連商品が含まれた投資信託を解約したくても解約できない事態に陥った。

 2007年8月9日に解約の凍結が発表されたことで為替相場は急変、欧米株は急落し、14日の日経平均は、一時、6百円安と深刻な事態に陥った。この頃、得体の知れないデリバティブが横行していた。ローン会社は、債券を銀行に売り銀行は債券を証券化して投資家が買えるようにした。

それが、MBS「モーゲージ債」と呼ばれた金融商品。さらにMBSやほかのローン商品とごちゃまぜにしたCDO「債務担保証券」という怪しげな金融商品も発売されリスクが低く、リターンの高い、デリバティブ「金融派生商品」として大人気になった。ローンをただ転がしただけなのに大きなお金を生み出すことに成功した。

 しかしここで注目すべきはローン会社の怠慢だった。ローン会社は、結局、債券自体を他の会社に売り飛ばしてしまうのでローンを組む人がどんな支払い能力が低くても気にしなかった。お金を回収できるかどうかは、二の次で、契約させたもの勝ちの杜撰な審査だった。

 2008年3月にベアスターンズが危機に瀕するとFRB「米連邦準備制度理事会」が黒子となって救済したようにリーマンも救済されると市場は想定していた。アメリカでは、債券の発行元を分析し信用度の格付けを行う優秀だと思われていたムーディーズやスタンダード・アンド&プアーズ、フィッチが存在していた。

 そんな優秀な信用格付け会社がサブプライムローンの中身が空っぽなのにもかかわらず、これら返済に問題のありそうな債券に「AAA」という最高ランクを付けていた。投資家は、そんなAAA債券を信用し疑いも持たず次々に債券を購入。その訳は、ムーディーズ等の格付け会社の信用度が高くアナリストや投資家の判断材料となっていたためだった。

「サブプライムローン債権を保有する投資家や銀行はリーマンショックで大きな損失を出した」
「なぜアメリカの代表的な格付け会社が、中身のない金融商品に「AAA」という最高ランクを付けたのでしょうか?」
「それは会社の根底にある『売れればどんな手を使っても良い』という無責任な考え方とアメリカを牛耳る大手企業の抜き差しならない利害関係があったためであった」。

 大手銀行のゴールドマン・サックスやリーマン・ブラザーズ、メリル・リンチ、・ベアー・スターンズというサブプライム・ローンの立役者とJPモルガンなどの金融複合企業、さらにムーディーズなどの格付け会社はサブプライム関連商品を売って大儲けするため、水面下で結託していたのであった。

 そのため格付け会社が、サブプライム関連の商品に「AAA」という最高評価を付けていたのだ。この評価を信用した多くの人々がなんの疑問も持たずサブプライム・ローンを組み、多くの投資家がデリバティブの購入に誘導されました。そしてリーマンショックの傷はどんどん深くなっていった。

 ローン利用者はもともと返済能力の低い人だったのですから返済が滞るのは当然。住宅供給もすでに飽和状態に達し買い手がつかない家があふれた。頼みの綱の地価や不動産価格も暴落し、たくさんのローン利用者が家を手離さざるを得ない状況になった。ローンが返済不可能になると債券はたちまち不良債権化した。

 それが各地でサブプライム問題が一気に表面化するとともに世界経済の不安材料となってしまった。ベアー・スターンズの実質的な破たんや、パリバショックが起きたのは、ちょうどこの頃。投資家が自分の持っている証券にサブプライム関連債券が混じっていることを知り、損失を恐れ慌てて売りに転じたことで市場は大混乱した。

 ローン引き受けの筆頭だったリーマン・ブラザーズは、もろにこの影響を受けた。リーマン・ブラザーズは、アメリカで第四位の大手証券会社でしたが、負債総額は6130億ドル「約60兆円」という莫大なものだった。しかしベアー・スターンズの時と同じようにリーマン・ブラザーズもアメリカの代表的な銀行や証券会社に買収された。

 こうして危機を乗り切るかと思われていたが、結局のところ買収は見送られた。アメリカ政府が公的資金を投入するなどの救済策を講じないと発表した影響も大きいが何よりリーマン・ブラザーズの抱え込んだ負債が途方もない大きさだったからであった。サブプライムローンで損害を被った金融機関はリスクを恐れずレバレッジを何十倍もかけて金融商品を売っていた。

 レバレッジとは、取引する金融機関に証拠金を預け、自己資本の数倍から数十倍の金額の取引をすることである。例えば百万円の証拠金を預け、10倍のレバレッジをかければ、1千万円の取引が行える。大きな利益を期待できる反面リスクも大きく、判断を間違えば資本金を大きく損なう危険もあったのだ。
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