希望を食い物にした腐臭

文字数 538文字

大丈夫
一、(名詞)丈夫をほめていう語
二、(形動)ひじょうにしっかりしているさま まちがいないさま 
三、(副)まちがいなく たしかに

この言葉を本来の意味で使っている人はどれだけいるだろう
あやふやな未来だと分かってはいるのに
それを認めたくはなくて
そうあって欲しいと願って使われる
弱々しい言葉

この言葉には願いが込められている
大丈夫、心配するな
大丈夫、神様が守ってくれる
大丈夫、お父さん必ず帰って来るから
戦時下の国でよく耳にする言葉

だがその奥底には
諦めにも似た感情が渦を巻いている

お父さんに戦争に行ってほしくない?
何でお父さんが行かなきゃならないのさ

本当はあなたに行ってほしくないのよ
俺が行かなきゃ誰が行くんだよ

大丈夫、約束するよ。すぐまた会えるさ。

少女の顔は笑ってはいても
必死に涙を押し隠そうとしている彼女の瞳が
必ずしもそれが真実ではないという事を物語っている

「祖国のために」
響きはいい
人を酔わせるような甘美な香りを持っている
頼るものがない時にはもっともらしく聞こえる言葉だろう

だが戦時下でそれは
全ての人の願いを犠牲にした上で成り立つ
この世で最も醜悪な臭いをはらんだ
グロテスクな言葉でもある

(注)『激戦地の子どもたち セーブ・ウクライナ 救出の記録』という番組を見て書いたものです。

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