#08 私が“レイラ・ドリス・マクレーン” になる![3]
文字数 2,051文字
“南軍勝利! ダイヤモンド鉱山は南部のもの!”
……装備、人員の多さでは北部と東部が優勢に立っていたが、戦争が長期化にするにつれて、兵士の未熟さ、兵士不足に悩まされていた。一方、南部は練度の高い兵士と、西部の装備投資により兵士の士気が上がり、北部の首都を陥落へと導く。よって、北部の将軍が降伏したことで5年に及ぶ南北戦争は終結を迎えた。
『……財産没収だと!? ダイヤモンド鉱山だけでは足りぬというのか! 我々から、どれだけ奪い取れば南部の連中も気が済むというのだっ!』
『お兄さま、少しは落ち着いて。全財産、持っていかれるわけじゃないんだから……』
『9割だぞ、9割っ! 戦費で膨れあがった南部の借金を、北部と東部の人間から巻き上げた金で帳消しにするだと! そのうち、“財産調査令”が施行され、保有する預金残高を提出しなければ全財産没収するとのことだ』
『財を築き上げてきたミュルヴィル家もこれまでね。所有する土地はすべて引き渡すことになりそうだけど、私はこの屋敷さえ残ってくれればいいわ。家族がともに過ごせる家があればね』
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『……まったく。いつまで、そうやって待ってるつもりなんだ』
『彼が迎えに来てくれるまで。ルーファスは生きてるわ!』
『そう言って、もう3ヶ月が経つじゃないか! いい加減、諦めろ。おまえの恋人はもう…………っ!』
『あなたも同じこと言うのね。今朝、お父さまにも言われたばかりよ。フェリクス、お願いだから、私のことはもうほっといて』
『あなたのことは嫌いじゃないわ。でも……、ルーファスは生きて帰ってくるって、私を迎えに行くって、そう約束したのよっ!』
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『ダメだ、まだ北部は混乱状態だ。女子供ひとりで歩けるようなところじゃないんだぞ』
『わかってるわ! でも、北部へ行けば、ルーファスに繋がる何かが見つかるかもしれない!』
『レイラ、おまえは何もわかっていない。北部はもう、おまえの知っているところじゃないんだぞ。それに……、ルーファスは戦死したって。覚えているだろう、ウォーズリーとサラがここへ来た日のことを』
『はははっ、ブランシャール。どうやら、私は神に見放されたようだ! 屋敷も牧場も失った上に、息子二人と妻まで戦争で奪われてしまった! 私が一体なにをしたというのだ。この先、なにを生きがいに生きて行けっていうんだ!』
『僕を信じてまっててくれ。必ず、生きて君のもとへ帰ってくるから』
『旦那様、お取込み中のところ、すみません。マリー様にフェリクス様がお見えになっていたのですが、御三方の話が外まで漏れていまして、フェリクス様がどうしてもと言うもので……』
『じゃ~ん、ベルンハルトさん特製の白ワインです。ぜひ、マリーおばさんに試飲をお願いしたいとのことです』
『まあ、よろこんで! それでどう、ベルンハルトさんと共同経営になってから』
『はじめは、南部のいけ好かないジジィだと思ってたんだけど、ワイン職人に悪い奴はいないな。不思議なんだ、同じ品種のぶどうを使っているのに、ベルンハルトさんが作ったものは少し渋みのあるワインに仕上がるんだ。作り手によって、仕込み方や熟成方法が違うから、同じ品種のぶどうを使っていても違う味のワインができるんだって教えてくれてさ』
『そう、うまくいってるようでよかったわ。それで、用はそれだけじゃないんでしょ』
『な、なにを言ってるの、あなた!? 心の傷がまだ癒えてないのに、そんなところに行ったら…………!』
『マリー、フェリクスに託そう。フェリクス、本当に娘を任せていいんだね?』
『はい、大丈夫です。最近じゃ、二日にいっぺん、三日にいっぺんと、飲む回数が減ってきましたから』
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『だいぶ荒れてるらしい。おまえがこれから行こうとしているところは、金目のもんを身に着けていると襲うような奴らがうじゃうじゃといる危険地帯なんだよ』
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