#17 未来へ [1]
文字数 1,698文字
あー、ため息が出るほど、ホントいい絵ね。エスター、今頃ライナスさんと会ってるところかしら?
エスター・ジェナ・マクレーン様
エスター、君に初めて書く手紙に今さらどう書いたらいいのか、正直戸惑いを感じます。
いざ自分の言葉で書こうとすると、筆がなかなか進みません。
実は今、あの古城で、ホテルの改装をしています。(君の驚く顔が目に浮かぶようだ。)
積もる話はありますが、それはさておき、君に見せたい場所があります。
君の都合のいい日に、例の古城で待っています。
ライナス・G・スタンフォード
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わあ、素敵! ここから街を一望できるのね! 私に見せたい場所って、ここ?
ああ、君のおばあさまが言っていた“思い出の丘”はここだよ。きっとね。あの通路を抜けて、どれくらいの人たちがこの景色を見てきたんだろう。
まさか、古城の地下通路から地上に出る抜け道があったなんて! はじめ、地下通路を案内されたとき、どこに連れてかれるんだろうって思ってたんだけど……。
あの通路は、外からの侵攻を受けたとき脱出するために作られたものなんだって。中世からなにも手を加えず、そのままを維持続けるなんて、歴史的ロマンを感じるね。でも、俺は不安がる君の顔を見れて楽しかったけどね。
『ラ、ライナスさん……、ここ地下道ですよね?』
『そうだよ、実はここ……、出るんだ』
『え?』
『…………』
『ででで出るって、いったい何が……、ですか?』
『そんなの、決まってるだろ。70年前の戦時中、病院に収まり切れなくなった負傷兵がここにあふれかえるほどいたらしい』
『えっ……』
『な、なんだか、足がガクガクと震えてきました……』
『……というのはウソで、行き場を失った民間人がここで生活してたんだ。ホテルに改装する前に、アレックスから地下通路の存在を聞いてね。ここに入ったのは、これで2度目なんだ』
『アレックスさんって、執事のあのアレックスさんですか?』
『ああ、アレックスはこの城のことを誰よりも知り尽くしてるからなぁ。先代……、伯父の代からずっと管理を任せてきたんだ。実は、アレックスも北部出身の人間でね……』
『あ、はい。アレックスさん本人から聞きました』
『あ、ほら、そろそろ光が見えてきた!』
昔、伯父が言ってたんだ。古城の上に、廃墟になった教会があったって。アレックスから地下通路のことを聞かされて、外に出たら、上へ続く道が出てきたから、もしやと思って! ここで伯父は、君のおばあさまにプロポーズしたんだよ。
ここで?
ロマンチックだわ。ライナスさんは、私の知らないことをたくさん知っているのね。私、おばあさまとあなたの伯父様のお話をもっと知りたいわ!
それは構わないけど……、俺は…………。
君との時間をゆっくりと歩いていきたい。
レイラ・ドリス・マクレーンが君だと知ったときは、伯父との思い出を共有できる“友人”になれたらいいと思っていたけど、君が伯父の思いを形にした絵を受け取ってくれたとき、『その思いを引き継ぐ』って言ったのを覚えてるかい?
いつか君が結婚して、子供を産んで、その子供や孫たちに、壁に掛けられた絵について話す――――。おばあちゃんになった君の横にいるのが、自分でありたいと……思ったんだ。あの城を伯父から受け継いだとき、迷惑でしかなかったのに。愛なんか、信じちゃいなかったのに……。不思議だな、君となら歩いて行けると思ったんだ。
ううん。ちがうの、うれしくて。あなたからの手紙をどんなに心待ちにしていたか……、今日会って確信したわ。私、あなたを…………。
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