#05 ウォーズリーさんが来る!

文字数 2,013文字

ただいま~。ああ、疲れたぁ。
おかえり、エスター。どうだった、おばあさまの故郷は?
()()()でいい場所(ところ)だったわ。写真たくさん撮ってきたから、あとでいっしょに見ましょ。
じゃ、お茶入れるね。
あ、ダメよ。シェリーは仕事中でしょ!
ありがと。
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で、どうだった? モデルのアビーといっしょだったんでしょ。かわいかった?
顔が小さくてかわいかったけど、なんていうか…………。
ん? なにかあったの?
もう大変だったんだから。

はじめは素直でいい子だなって思っていたのよ。でも、急にコロッと変わっちゃって、機材は壊すわ、コンラッドさんに怪我させるわ、(しま)いには仕事放り出してどっか行っちゃうわで、本人いないんじゃ仕事にもなんないし、現地解散よ。マネージャーさんがとても気の毒だったわ。

えー、なにそれ。もっと詳しく聞かせてよ。
……つまり、ヤキモチね。

そのライナスさんと、あなたが仲良くしてたもんだから嫉妬(しっと)したのよ。

私に? 仲良くっていたって、ほんの少し話しただけよ。彼の伯父さまも北部出身で、おばあさまと同じように辛い経験をされたみたいなの。たまたま似たような境遇(きょうぐう)の身内がいるっていうだけで、特になにも話してないわ。
またまた~、4日間も北部(むこう)にいたのよ。似たような境遇の身内がいる、そこから意気投合しロマンスに発展! なんてことにならなかったの?
まさか。純粋(じゅんすい)にそれだけで、私たち、お互いのことは特になにも話してないわ。それに、彼のことを知る前に、彼は仕事のトラブルですぐに帰ってしまったし、きっとそれだけの(えん)だったのね。
そんな残念なあなたに朗報(ろうほう)よ。あなたの留守の間に、例の()()から手紙がきてたわ♡

もしかして、ウォーズリーさん!?

そう、例の文通相手から。素敵なご老人、ウォーズリーさんには、年頃の息子さんやお孫さんはいないのかしら?

シェリー、残念だけど、ウォーズリーさんは独身なのよ。

エスター、おばあさまとの約束を守るのもいいけど、そろそろ自分の人生を(あゆ)んでみたら?
自分の人生って……、私、十分(じゅうぶん)好きなことしてると思うけど。まだまだ半人前だけど、小さい頃から好きだった仕事に()けてるし、これ以上、なにを望めっていうの?
もう、私が言いたいのはね!

エスター、あなた23年間生きてきて、“恋人”と呼べる人はいた? 少なくとも私は、あなたの口から、“コンラッドさん”と“ウォーズリーさん”以外の異性の名前は聞いたことがないわ。ウォーズリーさんの相手をするのもいいけど、あなた、このままだと独身よ。私だって、いつまでここに居られるのか、わからないし。恋人(マーク)に結婚を申し込まれたら、すぐにでも「YES!」って答えるわ。そしたら、あなた、またここで、おばあさまとの思い出の()まったこの広い家でひとりぼっちになっちゃうのよ。

シェリーの言いたいことはわかるわ。私もシェリーのように恋人を作って、いっしょにランチしたりとか、デートのたびにその人のことを考えて目一杯(めいっぱい)オシャレしてみたいとか、いろいろ憧れはあるのよ。こればかりは縁だもの。だから、おばあさまに(しば)られてるわけじゃないのよ。
そう、ならいいけど。
それに私、ウォーズリーさんからくる手紙を心待ちしてるの。毎回、短い手紙だけど、その日()た夢の話とか、散歩した時にふと思ったこと、知人の話とか、たまには愚痴(ぐち)も書かれてたわね。優しさが伝わってくるのが、季節の変わり目には必ず体調を気遣ってくれること。手紙を読むたびに、私の中のウォーズリーさん像が(ふく)らむばかり。
まるで、をしてるみたいじゃない。
恋? ある意味、そうなのかもしれないわ。“レイラ・ドリス・マクレーン”としてではなく、“エスター・ジェナ・マクレーン”として、恋にちかい感情を抱いてるのかもしれないわ。

レイラ・ドリス・マクレーン様


春風の心地よい季節になりましたが、お変わりなくお過ごしでしょうか。

移り行く時の中、あなたは覚えておいででしょうか。

あの日、あなたとお約束していたものをお渡しします。

そして、あなたに伝えなくてはならない大切な話があるのです。

つきましては週末…………。

……た、大変っ!

どうしたの、慌てて。
どうしよう、シェリー。ウォーズリーさんが来るって!
えっ、ここに! やったぁ、素敵な老人を見ることができるのね!

よろこんでる場合じゃないわよ。シェリー、おばあさまのことがバレちゃうじゃない!

いい機会よ、エスター。ウォーズリーさんに、おばあさまのことを話すべきだわ。
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登場人物紹介

エスター・ジェナ・マクレーン(Esther Jenna MacLaine)


レイラの孫。レイラのふりをして、昔の恋人“ルーファス”と文通をしている。

ライナス・グレッグ・スタンフォード(Linus Greg Stanford)


ルーファスの甥。

シェリー・ヴィオラ・ホワイトリー(Cherie Viola Whiteley)


エスターのルームメイトで、再従姉妹。レベッカの孫。

レイラ・ドリス・マクレーン(Laila Doris MacLaine)


自分のふりをして手紙を書いてほしいと、エスターにお願いをする。

ルーファス・クライヴ・ウォーズリー(Rufus Clive Worsley)


エスターの文通相手。実は彼にも秘密が。

アビー(Abbie)


モデル

本名はアビゲイル・ジェマ・ルイーズ(Abigail Gemma Ruiz)

アレックス(Alex)


古城の管理人

コンラッド(Conrad)


カメラマン

ハンナ(Hanna)


マネージャー

若かりし頃のレイラ

若かりし頃のルーファス

フェリクス・ミシェル・マクレーン(Félix Michel MacLaine)


エスターの祖父

レベッカ(Rébecca)


フェリクスの妹

ブランシャール家当主(Blanchard)


レイラの父

ウォーズリー家当主(Worsley)


ルーファスの父

マリー・ミュルヴィル(Marie Murville)


レイラの叔母

サラ(Sara)


レイラの家のお手伝いさん。もともとは、ウォーズリー家に仕えていた。

子供のころのアレックス

レスター(Lester)


ライナスの弟

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