#12 私が“レイラ・ドリス・マクレーン” になる![7]

文字数 2,216文字

『レイラ、ずっとそばにいてくれたのか? ……目が、赤い。俺のために、泣いてくれたのか……。ごめんな……、ごめんな、レイラ……』
『謝るなんて、あなたらしくないわ』
『……ごめん、レイラ。約束、守れそうにないわ。ブリーゲル先生から、聞いたんだろ。俺はもう……死…………』
『いやっ、言わないで……!』
『……ごめん、いっしょに年を重ねていけなくて。……ごめん、死ぬまで退屈にしないって言ったのに…………』
『みんなの前で誓って。私を幸せにするって』


『……それって!』


『あなたといっしょに年を重ねていけたら、きっと幸せなんだろうなって思ったの』


『ああ、約束するよ。俺といっしょになったら死ぬまで退屈にさせないって、幸せにするって誓う』

『……覚えてくれてたの?』
『当ったり前だ!』
『…………』
『レイラ、ふたりでどっか行こう』
『……思い出作りみたいで、あまり気が進まないわ』
『海行こう、海!』
『……あなたってホント、いつも勝手ね』
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『海を見てると、自分ていう存在がちっぽけに思えてくる』


『そうね。この海が悪いもの全部、消し去ってくれればいいのに……』

『……レイラ、昔話をしないか』
『ふふふ。昔話って、いったいどれくらい前のこと?』
『……クライヴのことだ。ブランシュがお腹にいた頃、クライヴが訪ねてきただろ』
『……え、ええ』
『あのとき、おまえの様子がおかしかったから、サラに問い詰めたんだ』
『サラ、レイラはなんでさっき泣いてたんだ?』


『さあ、存じません』


『おまえなぁ……。おまえといい、レイラといい、なんか様子がおかしかった。まさか、クライヴとおまえらは知り合いなのか?』


『…………』

『……そう、知ってたのね。ごめんなさい、今まで黙ってて』
『……いや、いいんだ。俺も、おまえに謝りたいことがある。本当は墓場まで持っていくつもりだったんだけど』

『……旦那様、これから申し上げることは、聞かなかったことにしてもらえますか?』


『ああ、約束する』

『……そっか。俺が、おまえたちを引き()いちまったのかもしれないなぁ』


『謝りたい? いったい、なにを?』
『おまえといっしょに、北部へ行ったことがあったろ。キャンプ場で、おまえの恋人のことを聞きまわってるとき、元兵士と名乗る男から聞いた話だ』
唯一(ゆいいつ)残ったのは、丘の上の城だけさ。ああ、そうだ。城に行けばいい。城に行くまでの間、おぞましいものを見るだろう……』
『おぞましいもの?』


『ああ。名誉ある死を()げた者なら、名が刻んであるだろうよ。あとは……、そうさな、()()に行くんだな。南軍が撤退するとき、負傷した兵士たちもいっしょに、設備の整った南部の病院に移されたからな』

『あのとき、南部へ行っていたら、見つかっていたかもしれない。南部へ行けば、おまえがもう二度と手の届かないところに行っちまうんじゃないかと思って、怖くて言い出せなかった。本当の俺は、卑怯(ひきょう)でズルイ人間なんだ。おまえの恋人のことを聞きまわりながら、心では見つからなければいいのにって思っていた』
『……あなたは、卑怯(ひきょう)でもズルイ人間でもないわ。最低なのは、私。彼は生きているんだって必死で訴えながらも、心のどこかで諦めていた。前へ進むために、()()りをつけるために北部へ行ったの。もしあのとき南部へ行って、彼を見つけ出したとしても、結果は同じよ。だって、もうそのときには、あなたに()かれていたんだから』
『レイラ……!』
『これだけは言わせて。あなたのことだから、“自分のせいで”って思ってるかもしれないけど、あなたはこの16年間、私の何を見てきたの? 確かに、ルーファスのことは今でも愛してる。もし戦争が無かったら、私は迷わず彼と結婚していたわ。でもね、あなたに出会ってしまった。これは私が選んだ人生よ、私があなたを……、フェリクスを選んだの。もっと自分に自信をもって。あなたらしくないわ』
『……今までで最高にうれしい愛の告白だ! また、ふたりで海に来たいな』
『そうね。海を見ながら、こうやってお互いの気持ちをさらけ出すっていうのもいいわね』
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東部の海岸へ、ふたりで行ったのが最後の思い出よ。旅行から帰って1週間も経たずに、彼は苦しむこともなく眠るようにして()ってしまったわ。45年という短い生涯だったけど、彼は私に“子供”という大切なものを残してくれた。おかげで、エスター、あなたという“孫”にも会えた。
そういえば昔、お父さんにおじいさまのことを聞いたことがあったの。そしたら、“男気(おとこぎ)のあるカッコイイ親父だった”って言ってたわ。
ええ、そうね。あなたのお父さん、ブランシュはまさにフェリクスの生き写し。とくに、困っている人がいるとほっとけないところとか、自分の非を認めてすぐに謝るところがよく似てるわ。ここのところ、フェリクスの夢を見るの。あの人は、あのときのまま若いの。
『レイラ……、レイラ……』
できることなら、おじいさまに会ってみたかったわ。それで、ウォーズリーさんとは何がきっかけで文通をするようになったの?
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登場人物紹介

エスター・ジェナ・マクレーン(Esther Jenna MacLaine)


レイラの孫。レイラのふりをして、昔の恋人“ルーファス”と文通をしている。

ライナス・グレッグ・スタンフォード(Linus Greg Stanford)


ルーファスの甥。

シェリー・ヴィオラ・ホワイトリー(Cherie Viola Whiteley)


エスターのルームメイトで、再従姉妹。レベッカの孫。

レイラ・ドリス・マクレーン(Laila Doris MacLaine)


自分のふりをして手紙を書いてほしいと、エスターにお願いをする。

ルーファス・クライヴ・ウォーズリー(Rufus Clive Worsley)


エスターの文通相手。実は彼にも秘密が。

アビー(Abbie)


モデル

本名はアビゲイル・ジェマ・ルイーズ(Abigail Gemma Ruiz)

アレックス(Alex)


古城の管理人

コンラッド(Conrad)


カメラマン

ハンナ(Hanna)


マネージャー

若かりし頃のレイラ

若かりし頃のルーファス

フェリクス・ミシェル・マクレーン(Félix Michel MacLaine)


エスターの祖父

レベッカ(Rébecca)


フェリクスの妹

ブランシャール家当主(Blanchard)


レイラの父

ウォーズリー家当主(Worsley)


ルーファスの父

マリー・ミュルヴィル(Marie Murville)


レイラの叔母

サラ(Sara)


レイラの家のお手伝いさん。もともとは、ウォーズリー家に仕えていた。

子供のころのアレックス

レスター(Lester)


ライナスの弟

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