#15 あなたがウォーズリーさん? [2]
文字数 1,906文字
……伯父が亡くなったのは、今から3年ほど前のことだ。亡くなる数年前から肺炎の繰り返しで、寝たきりの生活を送るようになっていた。そんな時さ、代筆を頼まれたのは。
『ああ、大丈夫だ。ライナス、彼女に手紙を書きたい。代筆をお願いできるか?』
『ああ。代筆といっても、私が言うことをそのまま、タイプライターで打ってくれればいいんだ』
『……レイラ・ドリス・マクレーン様。暦の上ではもう霜の降りる季節。風邪などひいていませんか。私たちの年になると、親族を含め親しき人の不幸が続きます。私たちも、いつの間にか、そういう年になったのですね。年々寂しくなるばかり……』
『……あぁ~、なんかもっと明るい話題はないんですか? こんなどんよりとした手紙を寄こされても困るだけですよ』
『そ、そうか、困ったな。明るい話題といっても、急には思いつかん……』
『……そうだな、俺なら……。レイラ・ドリス・マクレーン様。秋も一段と深まり、日だまりの恋しい季節となりましたね。風邪などひいていませんか。そちらでは、そろそろブドウ収穫祭の時期。あなたのまわりは活気あふれ、にぎやかな日々をお過ごしのことと存じます……』
……収穫祭といえば、昔、野菜収穫祭でエルヴィン兄さんと稲刈り競争をしたのを懐かしく思います。実はあの背景には、野菜収穫祭の後夜祭でどちらがあなたにダンスを申し込むかを賭けてのものでした。私はあっけなく負けてしまいましたが……、そう、エルヴィン兄さんにはなにひとつ勝つことができなかった。
兄は最後まであなたに告げることはなかったのですが、あなたのことを好いていたのですよ。
兄を想い、つい昔話をしてしまいましたが、私たちの年になると、親族を含め親しき人の不幸が続きます。私たちも、いつの間にか、そういう年になったのですね。年々寂しくなるばかりです。
『……それでは、秋冷日増しの候、くれぐれもお体をお大事に。R.C.ウォーズリー。……どうです?』
『ああ、いい手紙だ。それにしても、よくそんな昔話を覚えていたな』
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ふふふ。どうしちゃったの、エルヴィンお兄さま。今日はなんか変よ。
そういえば、ルーファスはどうしちゃったのかしら? さっきから姿が見えないの。
僕に負けてふてくされてるんだろう。今日は僕の相手をしてもらうよ、レイラ。
うちの馬を差し出せと言われたらしい。南部との戦が控えてる、嫌な世の中になってきたな。今のうちに、レイラに思いを伝えるといい。
あの後夜祭でダンスをしてるとき、彼女はずっと上の空だったよ。口を開いたかと思えば、出るのはおまえの名ばかり。どうやら、彼女はおまえのことが好きらしい。
ああ、僕は近々見合いをするよ。母さんが縁談を持ってきてね、写真を見たら可愛らしい人だった。
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『私が死んだあと、彼女に手紙を書いてくれないか。“ルーファス・クライヴ・ウォーズリー”として』
『そんな弱気なこと言わないでください。伯父さんには、まだまだ元気でいてもらわないと困ります。なんたって、伯父さんには絵の技法を教えてもらわないといけませんし』
『おまえには本当に申し訳ないことをしてると思うよ。本来おまえの持っている才能を、私のわがままのせいで殺してしまってる……』
『ライナス、おまえに託していいか。絵も手紙も……。彼女の最期のそのときまで、私の思いを彼女に届けたいんだ。彼女とは夫婦の関係にはなれなかったが、一度は愛を誓いあった仲だ。最後まで見届けたい……』
『俺には愛とか全然わからないけど、努力します……』
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