ママ、お花たくさん摘めたわ。パパに見せて来てもいい?
ダメよ、絵を書いてるときに声をかけちゃ、また怒られちゃうわよ。
そんな顔しないの、かわいい顔が台無しよ。お部屋に飾ったら、パパに見せましょ。
アニエス、先に行ってお出迎えしてくれる? 大好きなシェリーおばさんも来てるわよ。
ええ! ここが以前の美しさを取り戻すためにも。おばあさまやウォーズリーさんが見てきたものを、私も……、子供たちにも、その子供たちにも見せたいから!
……よかった。う……、よかった、です……。
(突然、泣き崩れる)
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『ただいまっ! 父さん、父さん、これ見てくれよっ!』
『ん……、これはダイヤモンドじゃないかっ‼ アレックス、これをどこで拾ってきたんだ!?』
『あそこの土は少し触っただけでも崩れやすくて、もろいって、子供は近づいちゃダメだって言ったじゃないか!』
『……ごめん、父さん。僕、父さんのように早くなりたくて……』
『……ふふふっ。でも、でかしたぞ、アレックス! お手柄だ! ついにダイヤモンドを掘り当てたんだっ!!』
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私は南部と北部の境界線にあった鉱山地に形成された集落の出身で、父も祖父も、曾祖父も代々鉱員をしていて、自分もいずれ父たちのようになるものだと思っていました。物心ついたときから、父にくっついて働く大人たちの背中を見ていたので、あの日も、父にほめてもらおうと軽い気持ちで掘っていたら、偶然にも掘り当ててしまったのです。まさか、こんな……、戦争まで発展する大事になろうとは思いもしませんでした。
『……クソッ。南部のお偉いさん方があの場所は南部の土地だと主張してきた! 鉱業権を速やかに引き渡すようにって!』
『そんな……! 先祖代々、俺たちはここを掘ってんだっ!』
『う~ん、ほんの数センチ、南部の境界線をまたいでいるのは確かだ……』
鉱業権と土地の所有権を巡って口論となり、父を含め数人が南部の役人に取り押さえられ、留置所のなかでも主張し続けたため銃殺されたと聞いております。そして、父たちの無残すぎる死に、他の鉱員たちが暴走し、収拾がつかなくなり戦争へと発展してしまい――――。きっかけを作ったのは、私なのです。私がみんなの人生を狂わせてしまったのです。私がダイヤモンドさえ掘り当てなければ、あの鉱山は閉じる予定だった。そうすれば、だれにも見つけられることなく、みんな平和に暮らせて行けたのに……!
『……はははは、生きてる。僕なんか、死んじゃえばよかったのに……。父さん、母さん……』
戦後は、どこもかしこもキャンプ場は人であふれ返り、頼るあてもなくさまよい続けました。今では考えられませんが、生きるためには盗みはもちろん、幼い少年を好む輩に体を売ったりもしました。その生活から抜け出したくて、私はそこから抜け出し、この古城へとたどり着いたのです。確か、財産調査令が施行されてだいぶ経った頃でした。私はここで先代のウォーズリー氏と出会ったのです。
(差し出されたパンを奪い取るかのように取り、がっつく)
『も、もしかして、あのパン……、お兄さんのだった?』
『いいんだよ。君の方が非常事態だ。お父さんとお母さんは?』
『……いないよ。みんな、みんな、僕が殺しちゃったんだ……』
『ほら、突っ立ってないでこっちへおいで。みんなに紹介するから……』
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もともとこの城は、城主不在の城でした。財産調査令が施行後、この城は南部所有となっており、いずれはここから立ち退かなければなりませんでした。私がウォーズリー氏、いえ先代とここで過ごせたのは、わずか数週間。彼は西部の親戚の家を訪ねると言ってここから去っていきました。
『まってくれよ、なんで行っちゃうんだよ。僕を……』
『アレックス、君も一緒に来ないかい? 亡くなった兄のお嫁さんの実家だから、僕たちが行っても歓迎されるかどうかわからないけど。父が心配なんだ』
『……ダメだよ、僕は行けない。僕はここに居なくちゃいけないんだ!』
『アレックス、前にも言ったと思うけど、戦争は君のせいなんかじゃないんだ。偶然が重なって起きたもので、君が責任を感じることなんてこれっぽっちもないんだ!』
『ううん、僕のせいだ! 僕のせいで、父さんも母さんも、鉱員のみんなも死んだ! お兄さんだって……、戦争がなければお兄さんは兵隊さんになることなく、好きな絵を続けられたんだよ。僕のせいで、腕が……!』
『そうまで言うのなら、君はこの街の行く末を見守るんだ。崩壊した街がよみがえるまで!』
そして、20年という月日が流れた頃でしょうか。墓守をしていた私のもとに、ウォーズリー氏が現れたのは。あの古城がオークションに出されてたのを、ウォーズリー氏が買い付けたとのことで、城の管理をすべて私に任せると言って鍵を置いていかれたのです。
『ここは僕の唯一の思い出の場所なんだ。僕の人生で大きな決断をしたね』
“この街の行く末を見守る”、私は先代との約束を果たさなければならない。だから、奥様には感謝しているのです。再び、この目で色鮮やかな花を見ることができたことを!
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