#06 私が“レイラ・ドリス・マクレーン” になる![1]
文字数 2,058文字
おばあさま、ウォーズリーさんから手紙が届いてたわ!
レイラ・ドリス・マクレーン様
大寒を迎え、寒さが身にしみる季節になりましたね。こちらは、そういった季節とは無縁なので、かじかんだ指に息を吹きかけていたあの頃がとても懐かしく思います。
寒さはこれからが本番。
風邪などひかれませんようご留意ください。
R.C.ウォーズリー
あの人らしい手紙ね。必ず、思い出をひとつ添えてくれる。
『もう、ルーファス! 抜け出すの、大変だったんだから!』
『ごめんよ。今夜の夜空があまりにもきれいだったから、君といっしょに見たかったんだ』
『あなたがランプで合図するから、何事かと思って。だいたい、私が気づかなかったら、どうするつもりだったのよ』
『そうだね、考えてもみなかったよ。ほら、もう少しこっちへ寄って』
『……冷たいわ。いったい、いつから外でまってたの?』
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できることなら、もう一度、北部の土を踏みたかった。できることなら……、もう一度、あの人といっしょに、いつもの丘で夕日を見たかった…………。
愛していたのよ、本当に、心から…………。あなたのおじいさまのことも愛していたけど、ルーファスへの愛は特別。私の青春をすべて彼に捧げたのだから。
『結婚しよう、レイラ。僕の生涯をかけて君を大切にするから』
『……やっと言ってくれた。このまま時間だけが過ぎていって、私、“おばあさん”になるんじゃないかって思っていたわ』
『ははは! それは悪かったね、待たせすぎちゃってごめん。君となら幸せな“おじいさん”と“おばあさん”になれそうだ。こんな頼りない僕だけど、僕のお嫁さんになってくれますか?』
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『少し前までなら祝福してやったが、今はあのときと状況が違う。……近いうち、南部と戦争になるだろう。すでに鉱山付近では紛争がはじまっていて、我々も今までのように穏やかに暮らしてはいけまい』
『……そう、エルヴィンお兄さまも出征してしまったのね』
『僕を信じてまっててくれ。必ず、生きて君のもとへ帰ってくるから』
『愛してるわ、ルーファス。必ず、生きて戻ってきて。まってるわ、あなたが迎えにくるまで、ずっと待ってるから。東部のマリー叔母さんの家よ、必ず迎えに来て』
『わかった、ミュルヴィル家だね。必ず行く。僕を待っててくれ。いつも君のことを思ってる。愛してる、レイラ』
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『北部と南部の戦争がはじまって3年が経ちましたが、今じゃ東部と西部の一部が加担し、全土を巻き込むまでに発展しました。戦争が始まって1年が過ぎた頃だったでしょうか、エルヴィン様の戦死の通知がきたのは。奥様はひどく嘆き悲しまれ、塞ぎがちになられました。そして、追い討ちをかけるかのように、先月、とうとうルーファス様の戦死通知がきてしまい、もともとお体の弱い方でしたので、そのままお亡くなりになられました』
『……そんな、なにかの間違いよ。必ず生きて帰ってくるって、約束したのよ。私を迎えに行くって……!』
『西部が加担したことにより、南軍の勢力は増し、北部への侵略が始まりました。とうとう私たちの街も侵略され、先日、街全体が火の海に包まれ、ウォーズリー家の牧場はもちろん、ブランシャール家のお屋敷ももう跡形もなく、なにもかも焼き尽くされました。私も旦那様も、命からがら混乱に紛れて北部から逃げてまいりました。まずはご報告をと思いまして、ブランシャール様とレイラ様のところに立ち寄らせていただきました』
『そうか、噂では聞いていたが、北部はもう壊滅状態なのか。ここは戦火からも遠く、今のところ静かで安心できるところだ。ゆっくりと休みなさい』
『ウォーズリー、おまえもだ。しばらく寝てないんだろう。先のことは、ゆっくりと相談に乗ろう』
『恩に着るよ、ブランシャール。私のことなど、どうでもいい。せめてサラだけでも……、マルゴットが目をかけていてね、サラをおまえのところに置いてもらえないだろうか』
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