#06 私が“レイラ・ドリス・マクレーン” になる![1]

文字数 2,058文字

【5年前】
おばあさま、ウォーズリーさんから手紙が届いてたわ!
エスター、お願い。聞かせてくれるかい。
ええ。

レイラ・ドリス・マクレーン様


大寒(だいかん)を迎え、寒さが身にしみる季節になりましたね。

こちらは、そういった季節とは無縁なので、かじかんだ指に息を吹きかけていたあの頃がとても懐かしく思います。


寒さはこれからが本番。

風邪などひかれませんようご留意ください。


    R.C.ウォーズリー

あの人らしい手紙ね。必ず、思い出をひとつ()えてくれる。
『もう、ルーファス! 抜け出すの、大変だったんだから!』
『ごめんよ。今夜の夜空があまりにもきれいだったから、君といっしょに見たかったんだ』
『ホント、きれい……』


(手に息を吹きかける)

『上になにか羽織(はお)ってこなかったのか?』
『あなたがランプで合図するから、何事かと思って。だいたい、私が気づかなかったら、どうするつもりだったのよ』
『そうだね、考えてもみなかったよ。ほら、もう少しこっちへ寄って』
『……冷たいわ。いったい、いつから外でまってたの?』
『ふふふ、さあね』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

できることなら、もう一度、北部の土を踏みたかった。できることなら……、もう一度、といっしょに、いつもの丘で夕日を見たかった…………。

おばあさま……。
愛していたのよ、本当に、心から…………。あなたのおじいさまのことも愛していたけど、ルーファスへの愛は特別。私の青春をすべて彼に(ささ)げたのだから。
『結婚しよう、レイラ。僕の生涯をかけて君を大切にするから』
『……やっと言ってくれた。このまま時間だけが過ぎていって、私、“おばあさん”になるんじゃないかって思っていたわ』
『ははは! それは悪かったね、待たせすぎちゃってごめん。君となら幸せな“おじいさん”と“おばあさん”になれそうだ。こんな頼りない僕だけど、僕のお嫁さんになってくれますか?』
『はい、よろこんで』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【北部 ブランシャール家】
『お父さま! 今はダメって、どういうこと!?』
『少し前までなら祝福してやったが、今はあのときと状況が違う。……近いうち、南部と戦争になるだろう。すでに鉱山(こうざん)付近では紛争(ふんそう)がはじまっていて、我々も今までのように穏やかに暮らしてはいけまい』
『……そう、エルヴィンお兄さまも出征(しゅっせい)してしまったのね』
『ああ。そのうち、僕にも来るだろう……』
『まって、ルーファス! 行かないで……』
『僕を信じてまっててくれ。必ず、生きて君のもとへ帰ってくるから』
『愛してるわ、ルーファス。必ず、生きて戻ってきて。まってるわ、あなたが迎えにくるまで、ずっと待ってるから。東部のマリー叔母(おば)さんの家よ、必ず迎えに来て』
『わかった、ミュルヴィル家だね。必ず行く。僕を待っててくれ。いつも君のことを思ってる。愛してる、レイラ』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【東部 ミュルヴィル家】
『サラ、もう一度言って』
『北部と南部の戦争がはじまって3年が経ちましたが、今じゃ東部と西部の一部が加担(かたん)し、全土を巻き込むまでに発展しました。戦争が始まって1年が過ぎた頃だったでしょうか、エルヴィン様の戦死の通知がきたのは。奥様はひどく(なげ)き悲しまれ、(ふさ)ぎがちになられました。そして、追い()ちをかけるかのように、先月、とうとうルーファス様の戦死通知がきてしまい、もともとお体の弱い方でしたので、そのままお亡くなりになられました』
『……そんな、なにかの間違いよ。必ず生きて帰ってくるって、約束したのよ。私を迎えに行くって……!』
『西部が加担したことにより、南軍の勢力は増し、北部への侵略が始まりました。とうとう私たちの街も侵略され、先日、街全体が火の海に包まれ、ウォーズリー家の牧場はもちろん、ブランシャール家のお屋敷ももう跡形(あとかた)もなく、なにもかも焼き尽くされました。私も旦那様も、命からがら混乱に(まぎ)れて北部から逃げてまいりました。まずはご報告をと思いまして、ブランシャール様とレイラ様のところに立ち寄らせていただきました』
『そうか、(うわさ)では聞いていたが、北部はもう壊滅状態なのか。ここは戦火からも遠く、今のところ静かで安心できるところだ。ゆっくりと休みなさい』
『ありがとうございます、ブランシャール様』
『ウォーズリー、おまえもだ。しばらく寝てないんだろう。先のことは、ゆっくりと相談に乗ろう』
『恩に着るよ、ブランシャール。私のことなど、どうでもいい。せめてサラだけでも……、マルゴット()が目をかけていてね、サラをおまえのところに置いてもらえないだろうか』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

エスター・ジェナ・マクレーン(Esther Jenna MacLaine)


レイラの孫。レイラのふりをして、昔の恋人“ルーファス”と文通をしている。

ライナス・グレッグ・スタンフォード(Linus Greg Stanford)


ルーファスの甥。

シェリー・ヴィオラ・ホワイトリー(Cherie Viola Whiteley)


エスターのルームメイトで、再従姉妹。レベッカの孫。

レイラ・ドリス・マクレーン(Laila Doris MacLaine)


自分のふりをして手紙を書いてほしいと、エスターにお願いをする。

ルーファス・クライヴ・ウォーズリー(Rufus Clive Worsley)


エスターの文通相手。実は彼にも秘密が。

アビー(Abbie)


モデル

本名はアビゲイル・ジェマ・ルイーズ(Abigail Gemma Ruiz)

アレックス(Alex)


古城の管理人

コンラッド(Conrad)


カメラマン

ハンナ(Hanna)


マネージャー

若かりし頃のレイラ

若かりし頃のルーファス

フェリクス・ミシェル・マクレーン(Félix Michel MacLaine)


エスターの祖父

レベッカ(Rébecca)


フェリクスの妹

ブランシャール家当主(Blanchard)


レイラの父

ウォーズリー家当主(Worsley)


ルーファスの父

マリー・ミュルヴィル(Marie Murville)


レイラの叔母

サラ(Sara)


レイラの家のお手伝いさん。もともとは、ウォーズリー家に仕えていた。

子供のころのアレックス

レスター(Lester)


ライナスの弟

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色