第44話 愛してる

文字数 690文字

 観光を少しして、一樹と駅前のホテルに泊まる。昼から東京に戻る予定にしている。
「疲れましたねー」と桜はぼんっとベットに寝転んだ。
「桜…」と横に座る。
「一樹さん…。気も遣ったでしょう」と一樹を見上げた。
 桜のベッドの上に広がる髪を掬って「綺麗だった」と一樹は言った。
「え?」
「綺麗な姿を見れて…良かった」 
 桜は一樹の方に両手を伸ばした。実家にいるので、遠慮していたけれど、今は気にせず一樹に触れられる。一樹も愛おしそうに桜に触れた。
「すごく久しぶりに感じます」
「僕も…」
 キスも…触れ合うこともお預けだった。優しく触れ合いながら、今日の式のことを思い出す。一樹が着ていた袴姿も格好良くて、見慣れないけれど、どきどきした。
「疲れましたけど、夫婦になれたって気がしました」
「僕は…ひたすら綺麗だなって思ってた」
「えー」と言いながら、キスを繰り返す。
 新しい生活が不安じゃないと言ったら嘘になるけれど、父親の前ではっきり言ってくれたから桜はついて行こうと思えた。
「愛してる」
「私も」
 お互いの指も髪の一本まで愛おしく感じる。一樹の匂いを感じながら、桜は愛されていること、愛することを考える。もっともっと深く…。

 翌朝は少しゆっくりして、ホテルの朝食を取る。桜はホテルの朝食が大好きなので、わくわくして身支度を整えた。一樹の髪の毛が跳ねているのを直しながら、鏡を覗き込む。鏡に並ぶ二人が何だかしっくりきたような気がして桜は嬉しくなる。そして後ろから抱きついて頰にキスをする。
「朝ごはん、朝ごはん」と桜は急かすと、一樹は笑った。
 幸せな一日がこうして毎日繰り返されるといいな、と桜は思った。
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