第20話 崩れる過去

文字数 1,174文字

 桜と佳は久しぶりに懐かしい話をたくさんした。お酒の飲めない佳と一緒に深夜までしているカフェに入る。二人でステーキプレートをピザを注文した。
 佳にはサロンをいつか経営するという夢がある、と笑って教えてくれる。きっと佳なら叶えるだろうと桜は思った。
「…桜。その日が来たら、顧客になってね」
「もちろん」と言って微笑む。
「でも桜が幸せになって嬉しい。ミーコは…拗らせてしまって…私の電話にも出なくなったけど…」
 ミーコは二人の友達だったが、ずっと学が好きだった、と桜に怒りをぶつけていた。
「佳にも…連絡しなくなったの」
「うん。仕方ないよ。いつまでも一緒っていうわけには…」と佳はため息を吐く。
「でも私がもっと分かってあげられたら…」
「それは桜の…奢りじゃない?」 
「おごり…だけど…。でももっとミーコのこと…」
「戻りたい?」
「え?」
「私はもういいかなって思ってる」と佳は言った。
「いいかな…って?」
「こんなにこんがらがって…。もう修復不可能だよ。それに…ミーコが嫌がってて…それでも桜は一緒にいたい?」
「…それは」
「お互い違う場所にいるんだから、それぞれの未来を見なくちゃね」
 すっぱりそう言い切る佳になんだか申し訳ない気持ちで桜は頷いた。
 一人で夜でも混雑している電車に乗るのにも少しは慣れた気がする。桜は短くなったボブの髪を電車の窓で確認した。うまく切ってくれたから、やはり今日はこのまま起きていようと決めた。

 真っ暗な家に帰るのは怖いけれど、桜は一樹が帰ってきた時にあったかく感じれるように灯りと暖房をつけた。そしてお湯を沸かして、紅茶を淹れる。ソファの上のブランケットを被りながら携帯の漫画でも読もうと思ったが、いつしか眠っていた。
「学?」
 夢の中で学が立っていた。高校の渡り廊下で、学生服を着ている。
「あれ? あ…良かった。死んでなかったんだ」と桜は声を掛けた。
 何も言わない学に
「生きててくれたら…それで良いの」と笑いかけようとした。
 学は少し困ったような顔で、しばらく桜を見た後、背中を向けた。
「待って…」
 何かを言わなければいけないと思って慌てて追いかけるが、学の姿は消えた。
 お腹の底から名前を叫んだが、学には届きそうになかった。
 そしてもう一度、声を出そうとしたその瞬間、目が覚めた。
(夢か…)と桜はため息をつく。
 夢の中で学が生きてて本当に良かったと心から思ったけど、それは砂のように崩れて去る。
(死んだ人に生きててくれたらって…酷だったかな)と自分の言った言葉に嗤う。
 困ったような顔をしている学を夢で見て、久しぶりに一緒だった時のことを思い出した。
 学を好きだった自分と愛されていた自分を。心変わりしたのかもしれないけれど、確かにその時間はお互いに気持ちが通じあっていた筈だった。
 玄関が開く音がして、桜は走って玄関に向かった。
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