第16話 人の見る目は様々です

文字数 7,707文字

1年先輩で岸野さんという人がいる。顔が黒くて恐い顔をしている。
1年先輩だとどうしても先輩先後輩の意識が強い。
出来るだけ言葉に気をつけていた。
1番勤務が終わって休憩室を出て行く時、岸野さんから言われた。
「おい、早川、火を消して来い」
「はい、今確かめてきます」
あっちこっちの灰皿を見て、火がついてないか確かめてきた。
「はい、大丈夫です」
「早川、火を消して来るんだよ」
「ええ、火はついていませんでしたけど」
「早川、おまえ俺をなめてんのか!」
「言われた通りにしましたけど」
「ふざけんなこの野郎!」
「ふざけていません。だいいち私はタバコも吸いませんけど」
「タバコを吸う吸わないの問題じゃないんだよ」
「はい、どうしたらいいんですか」
「俺の言う事が聞けないっていうんか!」
「言われた通りにしましたけど」
「じゃあ何で休憩室に電気がついているんだ!」
「・・・・・・火って蛍光灯の電気の事ですか」
「ふざけんな、この馬鹿やろ~」
「すいません気をつけます」

岸野さんは思いっきり私の足を蹴飛ばしてきた。
生活は貧しかったが、闘争心だけは持っていた。
しばらく岸野さんをにらみ返した。
「早川おめえ、やる気なんかこの野郎~」
「いいえ。つ、ぎ、か、ら、き、を、つ、け、ま、す」
ゆっくりと一言ずつ言葉をつなぎながら謝った。
これ以上蹴られたら、負けてもいいから向かって行こうと思っていた。

”ひ”は蛍光灯の事だったのだ。「火」が「灯」の事だったのは気が付かなかった。
日頃仲良くしていればこんなことはなかった。顔が怖くて避けていた。
余計なことは言うまいと意識して距離を置いていた。

「次からは気をつけろよ、この野郎、田舎者の癖にいい気になって」
岸野さんは私に背を向けて先に歩いていった。
それからは岸野さんには近づかない事にした。触らぬ神に祟りなしだ。

知らないところで人は誰かに嫌われている。
子供っぽくてオドオドした態度を可愛いと思う人ばかりではない。
この子供っぽさが気に入らない人もいる。人の見る目は自分ではどうにもならない。
だからって避けていたらいつまで経っても関係はよくならない。
わかってもらえるまで辛抱強く待つ事だと思った。

伊藤主任はビールを飲みながら聞いていた。
伊藤主任は私が先輩に意地悪をされていないかを心配している。
「そうか、そんなことがあったんか」
「たいした事ではありません」
「ほかにはどうなんだ」
「いいえ、みんな優しくしてもらっています」
「じゃあ、何で辞めたいんだ」
「ええ・・・」
「まだ何かあるんだろう。根本はどうなんだ、あいつもワルだからな」
「恐い人ですけど、いじめられていません」
「じゃあ、何で辞めたいんだ」
「ええ、・・・・」
「なんか、はっきりしないなあ」
「田舎に帰りたくなったんです」
「男がそんな理由で辞めたくなるのか?」
「ええ、まあ・・」

奥さんが時々料理を運んでくる。
「早川君、いつも楽しそうに食事をしていたじゃない。何で辞めたいの」
「ちょっと理由があって・・・」
「寂しいんなら、時々うちに来れば?」
「ありがとうございます。ちょっと違うんです」
「何かあるのね・・・」
「すみません、心配かけちゃって」
「それはいいんだけど、小夜子もがっかりするわよ」
「そんなことはないと思いますけど」
「小夜子、あんたに気があるみたいよ」
「うそでしょ」
「なんなら、小夜子起こしてこようか?」
「いいですよ、夜遅いですから」

奥さんも気を使って私の事を心配している。
私の興味ありそうな話をして慰めてくれる。

本当の事をいわずにここを去ることが出来なくなってきた。
伊藤主任は私を一人前にしようとして一生懸命に仕事を教えてくれた。
そんな時に影では受験勉強のほうに力を入れていた。
伊藤主任は職場ではお父さんのような存在だった。
奥さんは食堂ではお母さんのような存在だった。
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

正直に話さなければ話は前には進まない。
本当の事を話すことが今までの優しさに応える事だと思った。
「伊藤主任、実は大学へ行きたいんです」
「うん、若いもんは希望や夢を持つのはいいことだよ」
「今まで仕事のあと受験勉強やっていたんです」
「そうか、会社にも千葉工大の夜間部へ行っているのがいるぞ」
「そうなんですか、そういう人もいるんですか」
「たしか品質管理係の吉田っていったかな、話しを聞いてみるか?」
「ええと、もう入学試験を受けてきたんです」

伊藤主任の顔が急に真剣になってきた。
「うん、どういうこと?」
「先日合格発表も見てきたんです。何とか合格していました」
「う~ん、それじゃあもう決まっているんか。どんな大学なんだ?」
「早稲田大学の文学部なんです」
「ほんとかよ、嘘みたいな話だな、それじゃあ悩む事もねえだろ」
「今まで伊藤主任に色々教えて貰ったのに申し訳ないと思っています」
「そんなことはいいよ、若いもんが向上心を持つのはいい事だよ」
「1年かけて教えてもらった事が無駄になってしまってすいません」
「お前、そういえばポケットからメモ帳出してよく読んでいたな」
「すいません、休憩時間に歴史の年表や数学の公式を暗記していました」
「俺の言った事をメモして覚えていたんじゃないんだ」
「それが受験勉強だったんです。すいません」
「やっぱりそうか、なんかおかしいなと思ってたんだよ」
「すみません、勝手に会社で受験勉強なんかしちゃって」
「そんなことはいいよ、休憩時間や待機時間はみんなそれぞれなんだから」
「本当にすみませんでした」

伊藤主任はちょっとがっかりしたようだった。
「それにしても、よく入ったな、田舎の両親は知っているんか」
「いいえ、うちは貧しくて大学へ行くなんて言えない環境なんです」
「早く連絡してやれよ、両親が聞いたら喜ぶぞ」
「母ちゃんはいいんですが、父ちゃんには怒られそうです」
「ば~か、怒られるわけはねえよ。子供の幸せを喜ばない親なんているかよ」
「はい、今日にでも電話してみます」心にもないことを言った。

台所にいた奥さんがハンカチを目に当てながら伊藤主任の隣に座った。
「あたしね、早川君が1人で寂しくなって辞めたいんじゃないかと思ってたよ」
「特に寂しくはなかったです」
「だって、早川君食事をするとすぐに部屋に戻って殆ど外にでなかったでしょ」
「ええ、勉強する時間が惜しかったんです」
「早川君は、いつも決まった時間に食事をするのよね」
「ええ、時間通りに生活していましたから」
「日曜日は朝7時、昼間は12時30分からだよね。いつもぴったりの時間にね」
「良く知っていますね、食事も20分と決めていました」
「友達もあまりいないようだったしね」
「たまには清水と遊びましたけどね」
「でも勤務時間が違うので、すれ違いが多かったでしょ」
「ええ、おかげで勉強時間も増えましたけどね」
「私そんなことは知らなくて、かわいそうだなと思っていたのよ」
「そうなんですか、心配して頂いてすみません」
「親元から離れて一人で生活するなんて本当に寂しいだろうなって思ってたの」
「勉強したくて、家出みたいにして田舎を出てきたんです」
「だから早川君が食事に来ると小夜子を電話で呼んだのよ。声をかけてあげなって」
「ああそうだったんですか、だから小夜子さんよく食堂にいたんですね」
「あの子も筈かしやがりで、なかなか声をかけられなくってね」
「可愛くって、いい娘さんですね」
「小夜子と仲良くなって、ここへ遊びに来ればいいのになと思ってたの」
「すみません気を使って頂いちゃって」
「でもよかった、いい大学じゃない、おめでとう」
「ありがとうございます」
「でも寂しいね、小夜子も手が届かなくなっちゃったね」
「そんなことはありませんよ、小夜子さんもきれいで可愛いです」
「いいわよお世辞なんか、でも残念ね、小夜子と仲良くなって貰いたかった」
「嬉しいです。そんなに心配してくれて」
「じゃあ、今日は合格祝いだと思っていっぱい飲んでね」
「ありがとうございます」

伊藤主任が私と奥さんとのやり取りを黙って聞いていた。
その間に伊藤主任は何か考えていたようだ。
「早川、明日俺に退職願い持ってこい、俺が全部根回ししておくよ」
「ほんとですか、ありがとうございます」
「けっこう会社はうるさいからな、辞めるとなると根掘り葉掘り聞かれるからな」
「ええ、なんて話していいか悩んでいたんです」
「上田係長、芋生課長、総務の小池係長、職場の主任クラス4~5人だな」
「すいません、何もかもあまえてしまって」
「いいよ、早川もあと1ヶ月か。寂しくなるな」

伊藤主任の所を出たのは朝4時ごろだった。
私には信じられない世界があった。
家族でもないのに他人の事を心から心配してくれる人がいる事を知った。
自分の事しか考えない利己主義的な自分が恥ずかしくなってきた。
そんな醜い自分の心を伊藤さんの優しさで洗われたような気がした。

まだ私は人の幸せに力を尽くした事など一度もなかった。
人に優しくされるとその優しさが自分の心の中にも貯まっていく。
心に優しさをいっぱい貯め込んでいつかは他の人の為に使おうと思った。

部屋に帰ってこれから1ヶ月の予定を立ててみた。
両国のアルバイト先の会社にも連絡を入れておきたい。
清水にも宮原にも市原にも話しておきたい。
田舎の加藤にも渡辺にも連絡したい。
竜舞のおじさんやおばさんにもお礼しなければならない。

小中可南子や村岡良子にはどう言ったらいいだろう。
自分から連絡する勇気はない。
生活のレベルが違う劣等感の根は深かった。
この消極的な性格は変えていけるのだろうか。
大学入学をきっかけに性格の改造も考えてみようと思い始めた。

3月の第1週からは1番勤務となった。3月1日。不安な気持ちで工場へ出勤した。
伊藤主任が私の退職願を預かり各班の責任者に話をしてくれた。
それから、順番に偉い人の所へ話を通してくれていた。
総務課の小池係長の所へも話をしてくれた。
退職願いを最初に渡す相手は間違っていなかった。事がスムーズに事が運んでいる。
退職願いを出す相手が間違ったらもっと複雑になっていたかもしれなかった。

お昼休みに宮原さんが休憩室にやってきた。
「早川君、芋生課長が呼んでいるよ、事務室に来るようにって」
「はい、今行きます」
「早川君、会社を辞めるんだ?」
「うん、ちょっと事情があってね。清々するだろう?」
「早川君って、ホント子供ね」
「どうして?」
「いいよ、何もわかってないんだから」
「なに、何がわかってないん?」
「もういい。早く課長のところへ行ったほうがいいよ」

事務室には土井係長や芋生課長が応接用のソファーに座っていた。
覚悟はしていたがやはり緊張する。
事務所の人たちの作業服はきれいでアイロンがかかっている。
自分の作業服は油で薄汚れていた。

「早川君、こっちに来てください」
「はい、すみません」
「そこへ座ってください」
「でも作業服が汚れていますので」
「宮原さん、その椅子こっちへ持ってきて」
「ありがとうございます」

宮原さんがソファーの横に事務椅子を置いてくれた。
宮原さんは話が聞こえる距離にいる。
他の人達は昼休みの休憩時間に外の広い道路でハンドテニスをしている。

課長がタバコに火をつけながら話を始めた。
「早川君、伊藤主任から聞いたよ」
「すみません、自分勝手な事を言いまして」
「うん、いつ頃からそんな気持ちになったんだい」
「はい、入社する前から希望は持っていました」
「じゃあ、仕事や職場に不満があるということじゃないんだね」
「はい、それはありません」
「早く言ってくれれば、社内留学制度という事もできたんだけどね」
「総務の小池係長も入社する前にその事は説明してくれました」
「行く大学も決めていたって言う事ですね」
「はい、高望みですが決めていました。本当に申し訳ありません。」
「もし不合格だったら、どうしたの?」
「合格するまで、何年でも勉強するつもりでした」
「確信犯だね・・」
「すみません」
「仕事はどうだった?」
「楽しかったです」
「職場の雰囲気はどうだった?」
「優しい人ばっかりで、働きやすかったです」
「寮生活はどうだったの?」
「快適でした」

課長は書類を見始めた
「ふ~ん。早川君はけっこう評価が高いんだね」
「ええぇ? そうなんですか」
「人事考課という制度があって、部下の成績を評価するんだけどね」
「私は誰に評価されるんですか」
「早川君は、伊藤主任と上田係長が評価しています」
「そうですか」
「真面目で、よく指示された仕事をこなしていたようだね」
「普通にやっていただけですが」
「将来が期待できたのにね。わかりました。退職願いは受理します」
「ありがとうございます」
「まあ、早川君のためにはいい事だからね」
「ありがとうございます」

課長は上田係長に同意を求めた。
「上田係長、どうだ、特に問題ないだろう」
「ええ、いいことですよ、特に会社に不満があるわけでもなさそうですからね」
「上田係長も、部下の事はよく把握しておいて下さいね」
「はい、気をつけます」
上田係長がニヤニヤしながら謝っていた。

一仕事が終わったような雰囲気になり。芋生課長の話が軟らかい調子になってきた。
「私もあんたの年齢くらいの息子がいるんだよ」
「そうなんですか」
「受験に失敗して、駿台予備校に行っているんだけどね」
「ああ、そうなんですか」
「まったく遊んでばかりいて、早川君のことでも聞かせてやりたいよ」
「どこを目指しているんですか」
「私は国立を勧めているんだが、息子は慶応に行きたいって頑張っているよ」
「優秀な息子さんなんですね」
「ちっとも勉強している様子がないよ。また来年もだめなら、ただ飯食いだよ」
「羨ましいです、課長みたいな親がいて」
「おいおい、それ皮肉かい」
「とんでもないです。なんか暖かそうな家庭を感じます」
「それにしても早川君も、よく一人で頑張ったな」
「家庭が貧しいから、これしか方法がない気がしたんです」
「わかるよ、うちの息子なんか親父がやかましすぎるって嘆いているよ」
「じゃあ、退社の日まであと3週間頑張って働いて下さい」
「本当にありがとうございました」
「あと、総務の小池係長の所へ行って、細かい事を聞いて下さい」
「はい、ありがとうございました」
会社を円満に退職するのは入社する何倍も複雑だ。

上田係長がニコニコしながら頭を撫でてくれた。
「早川、よかったな、おめでとう」
嬉しいとは思ったが、私はいつになったら大人扱いをされるのだろう。
課長と係長が昼食に出て行った。

事務所には宮原さんと二人だけになった。宮原さんが近づいてきた。
「早川君、3月25日に辞めるんだ?」
「うん、ちょっと寂しいけどね」
「あと3週間か、もう何日もないね」
「うん、俺には長すぎるよ、もうやる事がなくなっちゃったからね」
「これからどうするの」
「大学に入った後の計画でも立てるよ」
「コーラス部の小海さんにも言っておいた方がいいよ」
「ああ、忘れる所だった、ありがとう」
「本当に頼りないんだね、それでよく合格したね」
「夢中でやれば誰でも出来るよ、女の事なんか考えないでね」
「早川君って、本当に女の気持ちがわかってないみたいね」
「そうかなあ~、だって宮原さんいつも俺のこと避けていたろう?」

宮原さんが泣きべそを書き始めた。
事務所の外でハンドテニスをしている人達のことが気になってきた。
私が泣かせたと思われたらどうしよう。宮原さんの目が涙で濡れて光っていた。
「もう、いやんなっちゃう。なんにも気が付かないの」
「うん、もしかしたら、俺の事好きだったんじゃないよね」
「どうしてそういう事を言うの」
「ごめん、もしよかったら文通でもする」
「何、文通って?」
「手紙の交換だよ」
「早川君って、古いね。今は電話があるのよ」
「手紙のほうが、かっこいいと思うけど」
「新しい住所はもう決まったの?」
「まだ確定はしていないけど、東京の両国になると思う」
「決まったら教えて?」
「うん、どうして知りたいの?文通でもしてくれるの?」
「同期で同じ職場なんだから、人に聞かれたら知らないって言えないでしょ!」
「そう怒らなくってもいいじゃない。わかった最初に宮原さんに教えるよ」
「早川君って、やっぱり子供ね」
「そうかな、そんなに子供かな~」
「そうよ、まるで小学生みたいな子供なんだから。じゃあ、必ず教えてね」

宮原さんに多少の恋心を抱いているが、まだ心ときめくほどではなかった。
このままここにいれば、もしかしたらという事も感じていた。
宮原さんの魅力は日に日に増してきていた。
人は身近な人に恋心を抱き、それがやがては本物になっていくのかもしれない。
それが一番自然な姿のような気がする。
初恋や片思いは捕まえることのできない幻なのだろうか。
過去は変えることは出来ない。過去には努力も通じない。
目の前の身近な所にこそ本当の幸せがある。
それに気が付くかどうかで、またその先の人生が変わる。

まだ自分は愛や恋に慣れていない。メソメソする宮原さんが可愛かった。
それでも、宮原さんにかけて上げる優しい言葉が見つからなかった。
工場内のうわさの伝達速度は速かった。特に辞めるという話は伝わるのが早い。

次の日にコーラス部の練習に顔を出した。リーダーの小海さんから呼ばれた。
「今月で辞めるんだって?」
「はい、ちょっと都合がありまして」
「大学へ入ったって言うじゃない」
「ええ、何で知っているんですか」
「そりゃ~、情報源はいっぱいあるからね。年重さんから聞いたよ」
「すみません。お世話になりっぱなしで辞めちゃうなんて」
「う~ん、いいんだよこっちも早川君には楽しませてもらったから」
「何も出来なかったですよ、足を引っ張るばっかりで」
「けっこう笑わせてもらったよ」
「コーラス部では、恥ずかしい事ばっかりです」
「あのベトコン頭は傑作だったね」
「もう、言わないでください」
「それから、あのノ~エ節は最高だったよ」
「恥ずかしくて、コーラス部には顔を出したくなかったです」
「あのね、今年も5月に葉山で合宿があるんだけど、参加しない?」
「ええ、いいんですか」
「早稲田の校歌でも歌ってよ、特別参加ということで」
「歌は遠慮しますけど、嬉しいです。参加させて下さい」
「じゃあ、今日みんなに発表しておくよ」

小海さんはみんなの前で私の退職と葉山の合宿参加を発表してくれた。
コーラス部のみんなは大きな拍手と歓声を上げてくれた。
たった1年、回数にして二十数回なのに仲間として認めてくれている。
貧しくて控えめなのがよかったのかもしれない。
自信のない態度が可愛がられたのかもしれない。
世渡りの方法が自分なりに判ってきたような気がした。
貧しい暮らしの中で作られた控えめな性格が幸いした。

この先どんなに知識が増えても、お金が増えても控えめに生きようと感じた。
どんなに生活が豊かになっても控えめに生きるんだと心にしまい込んだ。

今週から2番勤務になる。次は両国の安田課長に会いに行く。
次の歯車はすでに回転し始めている。
小さな初恋に揺らされて動き始めた人生の歯車がその役割を終わりました。
小さな歯車は次の歯車と噛み合い、しっかりと回転を伝えて行く。


第3部「人生は人の情け」に続く

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