第18話 2021年11 月 29 日(月)乗船 17 日目

文字数 1,249文字

パプアニューギニア沖での漁はここ数日好調でした。
3 日ほどで一気に目標量である 1000 トンのおよそ半分を水揚げしていたからです。
船員さんに聞いても、今回はなかなかいいペースということで、年内には帰れる可能性が高いということでした。

しかし、いつまでも好調は続くわけではありません。
いつまでも続くと思っていたアカギと鷲巣の麻雀でさえ 20 年続いた末に終わりました。
今日は久しぶりの水揚げ 0 です。今のところはいい調子ですが、今日のような 0 が続けばもちろん帰れません。

帰れません。

僕は見ていました。
初日の食糧の積み込みの際に冷凍のショートケーキが運ばれていくのを。

その箱に走り書きで「クリスマス用30個」と書かれていたのを。

30人のゴツい男たちが並んで聖夜にショートケーキを貪る姿もある意味見たくはあるが。

満船になるまで漁は終わりません。
クリスマスだって魚追っているかもしれません。

いやいや、こち亀だって終わったんだからさ。
いいともだって終わったんだからさ。
きっとクリスマスには日本に帰って来られるだろう。

と、散々悲観的なことを言いつつも、実は一回の漁にはタイムリミットもあるようです。
毎日の漁ではたくさんの経費がかかっています。
いつか説明した入漁料もそうですし、燃料費、船員への報酬も考えなければいけません。
せっかく魚をとっても採算が取れなければ意味がないですからね。
では、気になるタイムリミットは何日くらいなのでしょう。
船員さんに聞きました。

「この船になっで 1 番長がっだのは数回前の航海で、47 日間だったべなぁ(茨城弁)」

計算っタ〜イム!
僕たちが出港したのは 11 月 14 日。
航海日数は最大で 47 日間。
帰ってくる日は最長で〜

12 月 30 日
年の瀬。
テラ年の瀬。
そしてショートケーキ確定。

クリスマスなのでバイト休みまーすとか言ってた大学時代が懐かしいよ。
あの頃はよかった。
イルミネーションが綺麗だった。
当時の彼女へのプレゼントも買った。
ケーキは一緒に買いに行った。
彼女の家のちっちゃいこたつに入って一緒にテレビを見た。
クリスマス特番だ。
内容は覚えていない。
こたつの中で足が触れると彼女と目が合った。
器用に足の親指と人差し指で僕の足をつねった。
だからつねり返した。
足のサイズは僕の方が大きい。
つねりあいでは僕に分があった。
ちょっと不機嫌そうに彼女がこたつを飛び出す。
僕の向かい側ではなく隣に座った。
彼女が座れるように横に移動する。
ちっちゃいこたつの脚が僕の足にめり込む。
彼女が窮屈そうに座ると髪が僕の肩を撫でた。
僕は彼女の頭を撫でた。
彼女がこちらを見上げる。
背筋を伸ばし僕の顔との距離を近づける。
だから僕も背筋を伸ばし彼女との距離を遠ざける。彼女の頬が膨れる。
僕の頬は緩む。
いつものように僕が猫背に戻したとき、
山下達郎の歌が聴こえた。

はい。このくだり全部作り話です。

ということで、クリスマスまでというか明日にでも帰りたいHでした。

クリスマスに何するかって?
何もしねぇよクソが。
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