第63話 切り札

文字数 293文字

 ダールは、二つの失敗に、いらだっていた。
 一つは、名も知らぬ、ただ一人の人間に、傷を負わされたこと。その人間は、弓と矢という武器を持っていた。
 もう一つは、ガダル川での戦いで、人間に勝てなかったことだ。
 ダールは、悪の力を用い、切り札をあらわした。
 恐怖の使い——悪神。人間たちは、それを、こう言って恐れている。
 そう。ダールは、次元界から、悪神バルヌスを呼びよせたのだ。
 雷鳴とともに、バルヌスは、姿を結晶させた。
 その体に、暗黒を現出させ、額には、電光がうごめく。やわらかな、よろいに身をつつみ、手足の先は、そのまま境がなく、空間にとけこんでいた。
 ダールは、満足の声をもらした。
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