第81話 出会い

文字数 1,572文字

 その日、休んでいる時。
 ハーレイは、ユティと、おしゃべりしていた。
「ハーレイ、あなた、おひげがない。はやさないの?」
「ひげ? ないよ。おかしなこと言うね、このごろ」
「そうかしら」
 ユティは、指で、ハーレイの口を押した。
「ユティ、君は、ひげのある人がいいの?」
「さあ。でも、リダンのおひげは、にあってたわ」
「ね、みんなに、こんなことを聞いてるの?」
「ふふふ」
 ユティは、ちょっと笑って、どこかに行ってしまった。
 このあと。
「おいハーレイ、来てくれ。何かいるんだ」と、テッダがよぶ。
「何かって、なにさ」
「それが、こまってるんだ。どうも、「ニンゲン」てやつらしいよ」
「うそだろ」
「だからさ。今じゃ、ニンゲンに会ったことがあるのは、君だけだろ?」
「わかった。いくよ」
 ハーレイは、テッダのあとについて行った。
 その人は、野原にすわっていた。
 まちがいなく、人間だ。
 アノネとユティが、その周りではしゃいでいる。
「わあ、ずいぶん背が大きいのね」
「歩いてみせてよ」
 二人とも、人間に会うのは、初めてなのだ。
「オトコ、でしょ?」
 ゼルは、あきれて言った。
「よせやい。つかれて寝てたのに、このさわぎだ。化け物を一匹、たおしてきたところなんだぜ。あ、また二人きたね」
 ユティが、聞いた。
「ちょっと。それ、蛇の化け物?」
「ああ」
「その蛇、フローガ、っていうのよ」
「よく知ってるな」
 ユティは、この時、すぐわかった。この人を救ったのは、自分だということが。「あの時、急に、心にうかんだの。大きな蛇に巻かれた、よごれた人がね。その人は、もとはよごれてなかった」
 アノネが言った。
「それで、あの呪文を?」
「ええ」
「その話、してくれればよかったのに」
「それは、わるかったわ。ほんとの事か、わからなかったから」
 ゼルは、何の話をしているのかわからず、きょとんとしている。
「あのさ、きみたち。うちどこ? 子どもが、四人で、こんな所にいるなんて」
「人間さん。わたしたち、うちは置いてきちゃったの。ずっと、むこうにね」
「そ。ハラルドの塔に向かってるんだ、今は」
「それに、おれたち、子どもでも、人間でもないよ。ルウィンさ」
「ぼくだけ、前に、人間と会ってる。その人の名は、ネムって」
「何だって!」
「あなたも、ネムを知ってるの?」
「知ってるよ。じゃ、きみたち、ほんとのルウィンか?」
「さっきから言ってるでしょ!」
 ルウィンとゼルは、話をして、おたがいの名前や、いろいろなことを知り合った。
「サリュス連山? それは、ぼくたち知らない」
「ここからだと、たぶん北の方だと思うけど。山が、ずっとつながってるんだ。おれたちは、三人でそこを越えようとしてて」
「で?」
「うん。ネムと、連れのレイシーズは、ぶじ越えたと思う。今は、敵のダールと戦ってるはずだ」
「あなたは?」
「おれは途中で、地面の裂け目に落ちたあと、山の精だという、デアギンってやつにとらわれた。そして、「小さい者に会うだろう」って、言われたんだ」
「デアギンに?」
「そう。「小さい者」って、つまり君たちのことだろ? そのあと、蛇の化け物と戦ったんだけど、気絶しちゃってね。気がつくと、ここにいたのさ。まったく、何がなんだか、わからないよ。こうして、生きてるのが、信じられない」
「でも、蛇との戦いは、ほんとよ」
「だろうね。この剣もあるし」
 ゼルは、腰の剣をぬくと、日の光にかざした。命を救ってくれたフレイの剣は、白く輝き、少しもよごれていなかった。
「ねえ、ゼル。これから、どうするの?」
「どうしようか。ここが、どこかもわからないんだ」
「まよってるのは、ぼくたちも同じだよ」
「もし、よければ」
「いっしょに行こうよ」
「ハラルドの塔へ」
 ゼルは、答えた。
「それもいいな」
「やった!」
 四人のルウィンと、一人の人間。彼らは、広い野原を歩き始めた。
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