第14話 第二の出発
文字数 1,568文字
旅行者の出発は、遅れた。ユティが、リダンに字を教えてほしいと言い出したのだ。
彼は、図書館で毎日教えた。たまに、ほかの仲間も顔を出して、ユティと一緒に覚えていった。
テッダは、しぶしぶながらも協力的だ。図書館のムル酒が、力を発揮したのだ。
みんな活気づいていた。リダンはユティに、知っている限りのことを教えた。
「これで全部ね。あなたの知ってることは」
「そうだよ」
しかし、それはうそだった。
リダンは、一つ隠していた。あなたは知っているだろう。そう。館長の置き手紙のことだ。この手紙には、リダンが旅から帰ると、その日のうちに消えると書いてある。それで、みんなに出発を反対されるかもしれない。リダンは、この手紙のことは、だまっていた。
出発の日がやって来た。
全員が見送った。
ユティが「気をつけて」と言うと、リダンは「だいじょうぶ」と答えた。
そして、レムルとラーベスの二人の手を経たマントを身につけ、歩き出した。
こうして、第二の旅行者、リダンが誕生した。
「あら、何かしら」
リダンが旅に出て、何日かたった日のことだった。
ユティが、図書館で本を読んでいると、そこから何かが落ちた。それは、リダンが旅から帰ったその日に消滅すると警告した、館長の最後の手紙だった。ユティは、それを読むと、驚くより先に怒ってしまった。
「ひどいわ。こんな大事なことを言わないなんて!」
これは、ちょっとした事件になった。ユティはみんなに知らせ、このリダンの危険について、ルウィンたちは大騒ぎしたが、最後にはおさまった。
何も、旅行者が必ず消えるとは限らないし、誰もが、リダンはこのことを知っていたに違いない、と思ったのだ。
そのころ。
手紙の騒動も知らず、リダンは旅を進めていた。
第一の旅行者ラーベスは、東へ行ったことがわかっていたので、反対の西に向かった。
彼は、ひたすら歩んで行く。もうずいぶん来た。
そしてある時、地平線の彼方に、黒くてトゲのようなものがあるのに気づいた。
何だろうと思ってそちらへ行くと、やがて親指くらいの大きさになったが、それきりだった。
何とか近づこうとしたが、行き着くことができない。黒いトゲは、自分で動くことができるのだろうか。
リダンは、同じことをしてもムダだと思い、歩くのをやめてしまった。
じゃあどうすれば近づけるのか。座って、考えていたが、そのうち眠ってしまった。
次の朝。目がさめた。
リダンは、朝の光を受けて、元気いっぱいに歩いて行ったが、やたらと行く方向を変えてばかりいる。そして、やった。
彼は、なぜか太陽を背にして進む時だけ、それに近づくことができるのを、ついに見つけたのだ!
リダンは、急いでいた。
休むことなく、走って行った。
その黒いトゲのようなものは、丘のうねりに隠れるようにしてあったが、近づくにつれて、みるみる大きくなり、今では見上げるほどの大きさになっていた。
リダンは、走り続けた。息も切れるころ、やっと到着した。ハアハア言いながらゆるい坂を下ると、そこにそれが立っていた。
上から下まで一度に見ることができない、大きくて高いもの。
巨大な、黒い石の塔だった。
リダンは、その石の壁にたどり着くと、手をついて、ふうと息をした。石の壁が、ふるえたような気がした。
あたりには、もう夕やみがせまっていた。一日中走ったリダンは、しゃがむと、壁に寄りかかり、動けなくなってしまった。
「おい、眠っちまったぞ」
何だ。石の塔の中から、声がする。
「ふふふ。あのおちびさんには、休息が必要なんじゃ」
「けど、せっかくそこまで来たのにさ。中へ入らないなんて」
「ふん。あしたになれば、すべてわかるて」
声は、しなくなった。
すっかり暗くなった夜。石の塔と眠るリダンに、星たちがやさしく光を投げていた。
彼は、図書館で毎日教えた。たまに、ほかの仲間も顔を出して、ユティと一緒に覚えていった。
テッダは、しぶしぶながらも協力的だ。図書館のムル酒が、力を発揮したのだ。
みんな活気づいていた。リダンはユティに、知っている限りのことを教えた。
「これで全部ね。あなたの知ってることは」
「そうだよ」
しかし、それはうそだった。
リダンは、一つ隠していた。あなたは知っているだろう。そう。館長の置き手紙のことだ。この手紙には、リダンが旅から帰ると、その日のうちに消えると書いてある。それで、みんなに出発を反対されるかもしれない。リダンは、この手紙のことは、だまっていた。
出発の日がやって来た。
全員が見送った。
ユティが「気をつけて」と言うと、リダンは「だいじょうぶ」と答えた。
そして、レムルとラーベスの二人の手を経たマントを身につけ、歩き出した。
こうして、第二の旅行者、リダンが誕生した。
「あら、何かしら」
リダンが旅に出て、何日かたった日のことだった。
ユティが、図書館で本を読んでいると、そこから何かが落ちた。それは、リダンが旅から帰ったその日に消滅すると警告した、館長の最後の手紙だった。ユティは、それを読むと、驚くより先に怒ってしまった。
「ひどいわ。こんな大事なことを言わないなんて!」
これは、ちょっとした事件になった。ユティはみんなに知らせ、このリダンの危険について、ルウィンたちは大騒ぎしたが、最後にはおさまった。
何も、旅行者が必ず消えるとは限らないし、誰もが、リダンはこのことを知っていたに違いない、と思ったのだ。
そのころ。
手紙の騒動も知らず、リダンは旅を進めていた。
第一の旅行者ラーベスは、東へ行ったことがわかっていたので、反対の西に向かった。
彼は、ひたすら歩んで行く。もうずいぶん来た。
そしてある時、地平線の彼方に、黒くてトゲのようなものがあるのに気づいた。
何だろうと思ってそちらへ行くと、やがて親指くらいの大きさになったが、それきりだった。
何とか近づこうとしたが、行き着くことができない。黒いトゲは、自分で動くことができるのだろうか。
リダンは、同じことをしてもムダだと思い、歩くのをやめてしまった。
じゃあどうすれば近づけるのか。座って、考えていたが、そのうち眠ってしまった。
次の朝。目がさめた。
リダンは、朝の光を受けて、元気いっぱいに歩いて行ったが、やたらと行く方向を変えてばかりいる。そして、やった。
彼は、なぜか太陽を背にして進む時だけ、それに近づくことができるのを、ついに見つけたのだ!
リダンは、急いでいた。
休むことなく、走って行った。
その黒いトゲのようなものは、丘のうねりに隠れるようにしてあったが、近づくにつれて、みるみる大きくなり、今では見上げるほどの大きさになっていた。
リダンは、走り続けた。息も切れるころ、やっと到着した。ハアハア言いながらゆるい坂を下ると、そこにそれが立っていた。
上から下まで一度に見ることができない、大きくて高いもの。
巨大な、黒い石の塔だった。
リダンは、その石の壁にたどり着くと、手をついて、ふうと息をした。石の壁が、ふるえたような気がした。
あたりには、もう夕やみがせまっていた。一日中走ったリダンは、しゃがむと、壁に寄りかかり、動けなくなってしまった。
「おい、眠っちまったぞ」
何だ。石の塔の中から、声がする。
「ふふふ。あのおちびさんには、休息が必要なんじゃ」
「けど、せっかくそこまで来たのにさ。中へ入らないなんて」
「ふん。あしたになれば、すべてわかるて」
声は、しなくなった。
すっかり暗くなった夜。石の塔と眠るリダンに、星たちがやさしく光を投げていた。