第8話

文字数 647文字

翌々日のクリスマス・イブの日。
テレビの中の人々は、クリスマスムードで()りあがっている。
部屋の中は普段(ふだん)と何も変わらなかった。
相変わらずゴミゴミとして()らかっている。
パンの袋や拾ってきたような雑誌(ざっし)があちこちに落ちている。
父親も母親も朝からずっとゴロゴロとしていた。
僕も(うつ)ろな頭で部屋の(すみ)寝転(ねころ)がっていた。
クリスマスらしさなんて何もなかった。

3時過ぎに母親が起きて念入(ねんい)りに化粧(けしょう)を始めた。
今日はお店が休みだけど、お客さんと約束(やくそく)があるそうだった。

ゴロゴロしていた父親が僕の所までやってきてこっそり耳打(みみう)ちした。
「今日も頼むぜ。小遣いやるからさ」
お使いの事だ。
僕はぼんやりと父親の顔を見て、かすかにうなずいた。

化粧が終わると、母親はお店の売上の入った透明のケースを棚から取り出してバッグに入れた。
「じゃあ、行ってくるから」
そう言って、ドアを開けて出ていった。


しばらくして、母親が戻ってこないのを確信(かくしん)させるのに十分な時間が()ってから、父親は僕に行った。
「そろそろ行ってきたらどうや?」
僕は聞き返す。
「……色が()いやつ?」
「今日は煙草とちがうわ。大きな道沿いに緑の看板(かんばん)の大きな電器店できてたやろ。あこ行って何でもいいから頼むわ」
「……何でもいいの?」
「おう。けど、できるだけかさが小さくて高そうなやつたくさんがええな」
僕はそんな事ができるのか不安に()られたけれど、うなずいた。
「絶対捕まるなよ。逃げろよ。前みたいに(つか)まったら家に()かんからな」
「……うん……」
「早く帰ってこいよ。あいつが帰ってくるまでには絶対な」
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