第3話

文字数 746文字

それから。
僕は誰もいなくなった部屋の中で、(ひざ)(かか)えてテレビを見ていた。
時間は午後5時台。
今の時間にテレビでやっているのは、僕の好きなアニメじゃなかった。
子ども向けのアニメじゃなくて、キャラクターが何を言ってるのか分からない。
けれど、僕は(だま)ってそのアニメを見ていた。
そうやって大人しくしているのが、いつだって身のためだからだ。

ドアが開いた。
父親が帰ってきたらしかった。
僕はとっさに父親の方を見た。
その顔を見て父親の機嫌(きげん)がよくない事がすぐ分かった。
やばい、と思った僕は、父親の機嫌を(そこ)ねないように明るく 「おかえりなさい!」 と言った。
父親は黙って僕の方までやってきた。
思わずドキリとする僕。
父親はその大きな手で僕の体を引き寄せた。
僕は父親の腕力(わんりょく)に引っ張られるようにして無理矢理(むりやり)立ちあがらされた。
次の瞬間、父親は力任(ちからまか)せに僕の首元の皮膚(ひふ)をつねった。
たまらず悲鳴をあげる。

「痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイ!!!!」

首元の皮膚がねじ千切れそうだった。

「お前がライトなんて買ってきたせいだぞ!! そのせいで調子が出なかったんだ!!」

父親は僕にそんな言葉を浴びせかけた。
どうやら、パチンコというのに行って負けてしまったらしい。

「ごめんなさい……ごめんなさい……!!」

僕は必死に父親に(うった)えかけた。
父親の力はまったく弱まらない。

「やめてください……やめてください……!!」

血のつながらない父親に物を頼む時はいつも敬語だった。

「ちっ!! 今度は間違えるなよ!!」

父親はそう言ってようやく僕を解放(かいほう)してくれた。

父親はテレビの前で腰を下ろし、チャンネルを変えた。
僕は黙って父親から少し離れた場所に膝を抱えて座った。
父親と一緒にテレビを見ている。
テレビを見ている父親はまだイライラしていて落ち着かない感じだった。
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