第1話

文字数 698文字

クリスマス間近の土曜日。
商店街の通りのあちこちにクリスマス用の飾りが取り付けられていた。
道端(みちばた)でも所々(ところどころ)でサンタの格好(かっこう)をした売り子さんがお菓子や惣菜(そうざい)を売っていた。
大所帯(おおじょたい)の家族連れが歩いている。
玩具(おもちゃ)を買ってもらってうれしそうな子どもがはしゃいでいる。
お年寄りが電動車椅子(でんどうくるまいす)に乗って前進している。
学生のカップルが()()って歩いている。
いつもより人通りが多く、通り全体が明るく(はな)やいでいる感じだった。

その中を僕は人ごみに(まぎ)れて歩いていた。
うす汚れたリュックを背負って歩く8才の僕は、一人だけ別世界にいた。
クリスマスムードに(いろど)られた商店街の通りではなく、砂漠のど真ん中にいた。

「パァン!!」
「ドキュウン!!」
「パン パパァン!!」
「ズキュン ズキュゥン!!」

目の前でアニメ絵の小さなギャング2人が銃撃戦(じゅうげきせん)をやっている。
互いに砂丘の(かげ)に身を隠しながら、ふとした瞬間に身を(おど)り出して相手に向かって発砲(はっぽう)している。
ギャングの名前はリリとララ。
手に持っているのは玩具のピストル。
なのに2人は真剣に()ち合っている。

リリが時折僕の方を向いて言う。
「俺が勝ったらチョコあんぱんな!!」
ララが時折僕の方を向いて言う。
「俺が勝ったらラムネとうまい棒な!!」

2人はいつも僕の頭の中で戦っている。
毎日のように戦場(せんじょう)を変えながら決闘(けっとう)をしている。
そして、その決闘によって僕の(まよ)い事を決めようとする。
けれど、お互い玩具のピストルだからいつまでも決着がつかない。

僕は頭の中を完全に2人に明け(わた)し、ぼんやりと人ごみの中を歩いていた。
何だかこの世界にいながら、この世界にいないような感じがする。
周りの人々の幸せそうな笑顔はまるで僕の目に映らなかった。
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