第15話

文字数 560文字

僕はふと(われ)(かえ)った。
もう追いかけてくる人間の気配は感じられない。
けれど、どこをどう走ったのか。
自分がどこにいるのかさっぱり分からなかった。

ここはどこだろう?

全く見た事もない住宅街(じゅうたくがい)の路地の真ん中に僕は立っていた。
周りはたくさんのオシャレな住宅が取り(かこ)んでいる。
ある住宅はチカチカと(またた)く色とりどりの素敵(すてき)なイルミネーションで(かざ)り付けられている。
あちこちの家からかすかに家族の談笑(だんしょう)する声が聞こえる。
楽しげなクリスマスソングが聞こえる。
時折(ときおり)、おいしそうないい(にお)いが流れてきたりもした。
僕のお腹は()ききっていた。


僕は住宅街を一人でさまよった。
自動車が通り、何度も僕とすれ違った。
その運転手と時折目が合い、いぶかしそうにこちらを見るのが分かった。
僕は誰にも見つからないように路地裏(ろじうら)の細い道を選んでひたすら歩き出した。

頭の中が混乱(こんらん)していて色々な思いがぐるぐるとまわっている。
なんで僕をほっといてくれなかったの?
盗んだものを取り上げるだけでよかったのに。
それで、(だま)って帰らせてくれればよかったのに。
全てなかった事にしてくれたらよかったのに。
なんで、父親に連絡したの?
なんで、僕がヘマをした事を父親に教えたの?
僕に死ねと言ってるようなものじゃないか。


空には細い月が()かんでいる。
僕はひたすら足を前に出して歩いていた。
行くあてなんてなかった。
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