第2話

文字数 695文字

そうして、僕はアパートまで帰って来た。
リリとララは頭の中から姿を消し、途端(とたん)に僕はこの世界に引き戻される。
僕は一瞬ためらいながらも、ゆっくりとドアを開けた。
奥では血のつながらない父親が地べたに寝転(ねころ)びながらテレビを見ていた。
僕は(くつ)を脱ぎ、台所にあがった。
足音に気付いた父親が少し首をひねってこちらを見た。

「おう、帰ってきたか」

中肉中背(ちゅうにくちゅうぜい)強面(こわもて)の父親はそう言いながら体を起こして、胡座(あぐら)をかいた。
僕は背中からリュックをおろし、中に手を突っ込んだ。
そうして、父親にワンカートン(煙草(たばこ)10箱を詰めた縦長い直方体の包み一つ分)の煙草を差し出した。
途端に、みぞおちに父親の拳が深く突き刺さった。

ゲオッ!

生理(せいり)的な危機感(ききかん)を伝えるおぞましい痛みが腹部から全身に広がり、地べたに倒れこむ僕。
呼吸が止まってのた打ち回る僕の上から父親の言葉が振ってくる。

「だからライトじゃねえよ!!!!!
俺が言ったのは普通のマイセン(マイルドセブン)!!
色が違うだろうがよ!!」

僕は苦痛(くつう)に青ざめながらも、頭は悔恨(かいこん)恐怖(きょうふ)で一杯になっていた。
(やっちゃった……!!)

「使えねえ奴だな!! もう一遍(いっぺん)行って来い!!」

僕は、未だに起き上がれない。
苦痛でお腹を(かか)えながら、哀願(あいがん)するような目で父親を見る。
(もう許してください……!!)
父親はイライラした様子で僕をしばらく見下ろしているだけだった。

「ちっ、大げさに痛がりやがって」

父親はカートンの煙草を拾い、包みを(やぶ)った。
そして、中から二箱を取り出してジャケットのポケットに突っ込み、本当使えねえ、と文句を言って部屋を出ていった。

小遣(こづか)いはなし……?
そんな……。

ああ、でも僕が悪いんだ。
僕が馬鹿だから。

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