第7話

文字数 843文字

夜、(うす)い布団の中で寝転ぶ。
(せま)い部屋の中で父親も母親も一緒に寝ている。
僕は眠れなかった。
お腹が()いてたまらなかったからだ。
今日の晩ごはんは抜きだった。
嘘をついた、勝手に外に出た、というのがごはん抜きの理由だった。

僕は必死でお腹を()さえて、空腹(くうふく)を忘れようとした。
けれど無理だった。
僕は朝昼(ちょうしょく)のご飯だってまともに食べてさせてもらっていなかった。
空腹を忘れようとすればするほど、色々な食べ物が頭に()かんでくる。
ごはん、味噌汁(みそしる)野菜炒(やさいいた)め、コロッケ、ハンバーグ、スパゲッティ、シチュー……。
思い浮かぶのは、施設に入っていた時に食べさせてもらったメニューばかりだった。
この家では、インスタント(めん)や食パンしか食べさせてもらってない。

ああ、施設の料理をお(なか)一杯(いっぱい)食べたい。
施設に戻りたい。

そう思うと同時に施設での出来事(できごと)が色々と思い浮かんでくる。
施設には心の温かいおばちゃんが何人もいて、やさしくしてもらった。
僕と同じような子ども達みんなと一緒に遊んでくれたし、みんなに向かって色々な本を読んでくれた。
リリとララという仲良しギャングの絵本も読んでくれた。
あの半年間は幸せだった。
このままずっと施設にいたいと思った。

けれど、ある日突然その心(おだ)やかな日々が打ち切られた。
母親が 「もう大丈夫だから」 と言って僕を引き取りにやってきたのだ。
母親に引き取られる直前におばちゃんの一人が、僕に言った。
「悪い事ばかり考えないでね。生きていればきっといい事があるからね。楽しい事を考えてね」
僕は、ウン、とうなずいた。

それから、僕はアパートでの生活に戻った。
母親は施設の人に 「もう大丈夫ですから」 と自信気(じしんげ)に言っていたけれど、何も変わっていなかった。
父親や母親からはすぐに手や足が出た。
また、僕は幼稚園や小学校にも行かしてもらえなかった。
(あざ)だらけの体をした僕を人目に()れさせたくなかったからだ。
今の僕は小学2年生のはずだったけれど、毎日家の中で両親の暴力を受けながら過ごしていた。

知らないうちにいつの間にか夜が()けていった。
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