第14話
文字数 1,702文字
今、ホームセンターの事務室のイスに座っている僕の頭にその時の辛 い記憶が蘇 り、顔や全身が痛みで疼 いた。
名前も住所も両親の名前も、絶対に言えない。
目の前の男性は何も入ってない僕の服のポケットを調べた。
薄汚 れたリュックも空 っぽで盗品 以外何も入っていなかった。
僕はずっと黙っていた。
事務室の中で重苦 しい時間が過ぎていく。
男性は僕に言った。
「教えてもらわない限り、おうちに帰す訳には行かないんだよ」
僕の心の中で不安 が広がった。
父親からは早く帰って来い、と命令されていた。
どうしようどうしよう。
このままじゃ、帰れない。
けれど、名前や住所を教えたら父親に連絡が……。
さらにカマや包丁を盗んだ事まで報告されたら。
僕が両親を殺そうとした事を気付かれちゃうかもしれない。
どうしたらいいの?
どうしたらいいの?
不安と焦 りで心臓 が壊 れてしまうぐらい激 しく脈打 っていた。
しばらくして、警察官 がやってきて僕を捕まえた警備員と入れ替 わった。
警察官が男性に尋ねる。
「何か手がかりになる物持ってました?」
「いやリュックも空っぽで、この子のポケットにも何も入ってなくて、さっぱりですわ」
警察官が男性と入れ替わって僕の前に座った。
「なあ? 名前と住所、教えてくれないかな?」
僕は黙っていた。
それしかできなかった。
警察官が男性に振り返って言う。
「確かに手ごわいですな」
警察官が再び僕の顔をのぞき込んで話しかける。
「お腹 空 いてるだろう? こんなクリスマスの日にいつまでもこうしているつもりかい? ボクも早くおうちの人に迎えに来てもらった方がいいだろう?」
警察官はふと何かに気づいたような顔をした。
「ん? この子、どこかで見た事がある顔だな。だいぶ前だと思うけど……」
え?
僕は急に不安になった。
「あ、そうか、あそこの……、児童養護施設 だ。ちょっと確認してみますわ」
警察官は電話をするために事務室の外に出た。
「すみません、○○警察署のと△△と言うんですけどもちょっとお伺 いしたい事があるんですが……はい、はい……」
事務室の外から警察官の声が聞こえる。
「……特徴 ねぇ。右耳の裏辺 りに楕円形 のホクロがある……」
警察官がしばらく、相手の返事を待っていた。
「……ああ……はいはい……キュウ…サン…ゼロ……わかりました、すみません、どうもありがとうございます」
電話を終えた警察官が男性に報告する。
「ああ、それらしきお子さんの自宅の電話番号分かりましたよ、ちょっと電話してみますわ」
警察官は着実に将棋 のコマを詰 めていた。
僕は恐慌 をきたした。
警察官が僕の目の前で今にも父親と連絡を取ろうとしている。
ああ!!
ばれちゃう!!
父親に連絡がいっちゃう!!
やめてやめて!!
電話しないで!!
「もしもし××さんのお宅ですか?」
電話が僕の自宅とつながったようだ。
「あのですね、○○警察署の△△と言うんですけども、今……」
次の瞬間、僕は警察官の声をかき消すように叫んでいた。
「ああああああああ!!!!! やめてやめてやめてやめてやめて!!!」
僕は事務室に置いてある事務用品を手当たり次第につかんでは投げ散 らし、もしくは振 りまわした。
男性が僕を押さえにかかろうとする。
「死ぬ!! 殺されちゃう!! 逃げなきゃ!!」
「おいこら!! 暴れるなっ!!」
「あああああああ!!!!! 死にたくない死にたくないよぉぉ!!!」
僕は男性のワキをすり抜けた。
男性がその僕の服をつかんだ。
「馬鹿!! 落ち着けって!!」
ふと僕の服の下のおびただしい数の青痣 がむき出しになった。
それを見た責任者の男性は目を剥 いた。
僕はその一瞬のすきをついて男性の手を振り払い、事態を把握 するためにドアを開けた警察官の股 をくぐって、逃げ出した。
警察官が大声を上げた。
「誰かぁっ!! その子を捕まえてくれ!!」
捕まるもんか!!
捕まったら殺されちゃう!!
僕は無我夢中 で走り、たまたま目に入った商品の搬入口 の方に走った。
ちょうど店内が忙しい時間帯なのか、搬入口には人気 がなかった。
僕はそこから外へ逃げ出した。
そのまま駐車場を抜 けて道沿 いの細い路地 に入り、一心不乱 に走って逃げた。
頭の中には一刻 も早く父親の恐怖から逃げる事しかなかった。
名前も住所も両親の名前も、絶対に言えない。
目の前の男性は何も入ってない僕の服のポケットを調べた。
僕はずっと黙っていた。
事務室の中で
男性は僕に言った。
「教えてもらわない限り、おうちに帰す訳には行かないんだよ」
僕の心の中で
父親からは早く帰って来い、と命令されていた。
どうしようどうしよう。
このままじゃ、帰れない。
けれど、名前や住所を教えたら父親に連絡が……。
さらにカマや包丁を盗んだ事まで報告されたら。
僕が両親を殺そうとした事を気付かれちゃうかもしれない。
どうしたらいいの?
どうしたらいいの?
不安と
しばらくして、
警察官が男性に尋ねる。
「何か手がかりになる物持ってました?」
「いやリュックも空っぽで、この子のポケットにも何も入ってなくて、さっぱりですわ」
警察官が男性と入れ替わって僕の前に座った。
「なあ? 名前と住所、教えてくれないかな?」
僕は黙っていた。
それしかできなかった。
警察官が男性に振り返って言う。
「確かに手ごわいですな」
警察官が再び僕の顔をのぞき込んで話しかける。
「お
警察官はふと何かに気づいたような顔をした。
「ん? この子、どこかで見た事がある顔だな。だいぶ前だと思うけど……」
え?
僕は急に不安になった。
「あ、そうか、あそこの……、
警察官は電話をするために事務室の外に出た。
「すみません、○○警察署のと△△と言うんですけどもちょっとお
事務室の外から警察官の声が聞こえる。
「……
警察官がしばらく、相手の返事を待っていた。
「……ああ……はいはい……キュウ…サン…ゼロ……わかりました、すみません、どうもありがとうございます」
電話を終えた警察官が男性に報告する。
「ああ、それらしきお子さんの自宅の電話番号分かりましたよ、ちょっと電話してみますわ」
警察官は着実に
僕は
警察官が僕の目の前で今にも父親と連絡を取ろうとしている。
ああ!!
ばれちゃう!!
父親に連絡がいっちゃう!!
やめてやめて!!
電話しないで!!
「もしもし××さんのお宅ですか?」
電話が僕の自宅とつながったようだ。
「あのですね、○○警察署の△△と言うんですけども、今……」
次の瞬間、僕は警察官の声をかき消すように叫んでいた。
「ああああああああ!!!!! やめてやめてやめてやめてやめて!!!」
僕は事務室に置いてある事務用品を手当たり次第につかんでは投げ
男性が僕を押さえにかかろうとする。
「死ぬ!! 殺されちゃう!! 逃げなきゃ!!」
「おいこら!! 暴れるなっ!!」
「あああああああ!!!!! 死にたくない死にたくないよぉぉ!!!」
僕は男性のワキをすり抜けた。
男性がその僕の服をつかんだ。
「馬鹿!! 落ち着けって!!」
ふと僕の服の下のおびただしい数の
それを見た責任者の男性は目を
僕はその一瞬のすきをついて男性の手を振り払い、事態を
警察官が大声を上げた。
「誰かぁっ!! その子を捕まえてくれ!!」
捕まるもんか!!
捕まったら殺されちゃう!!
僕は
ちょうど店内が忙しい時間帯なのか、搬入口には
僕はそこから外へ逃げ出した。
そのまま駐車場を
頭の中には
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