第17話

文字数 452文字

外気(がいき)に体温を(うば)われるのと同時に、体が少しずつ力を失っていく。
僕の体が木や鉄の板と同じ、動かない物体になるまで長くはかからなかった。




自分の体が生命(いのち)を失っていくのが。
もう2度と起きて動けなくなるのが。

すごく悲しい。
目も鼻も口も耳も。
手も足も頭もお腹も。
全ての機能(きのう)がダメになっていくのが。
すごく悲しい。
なのに涙が出ない。
ずっと前から出なくなっていた。




さみしい。




ふと、施設のおばちゃんが読んでくれた本を思い出した。
今の僕は「フランダースの犬」の最後と同じみたい。
けれど、ネロが死んでいく(そば)にはパトラッシュがいてくれた。
アロアの家を飛び出して、パトラッシュが追いかけてきてくれた。




僕は一人だ。
一人で死んでいくんだ。




さみしい。





体が(こご)えて意識がどんどん遠のいていく。












ふと僕の体に()れる人の手の感触(かんしょく)を感じた。
その誰かが僕の体を()きしめてくれた。




ああ、(あたた)かい。
あなたは誰?
神様?
最後の最後に僕を助けようとしてくれてるの?




全身にほのかなぬくもりを感じながらも、僕は最後に思った。






ああ、でも僕をもうこの世界に置かないで。





おわり
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