8・葵の肩書き
文字数 1,442文字
────管理塔襲撃事件、数日前。
「
少しウエーブのかかった艶やかな金髪に童顔、華奢な肢体、それは現実世界と変わらぬ葵の姿。
通称AGと呼ばれたこの世界の正式名称は、
【A world with utopia underground】
前作が作られたのは二十年前。事故があり閉鎖された、仮想世界を土台としでバーチャルリアリティーゲームある。
事故……あるいは事件だった可能性もあるが、そのころまだ産まれていなかった為、葵は詳しく知らなかった。
二作目にあたる現在のAGの世界は前作の土台の上に作られおり、どこかに前作の世界に繋がる道があるのではないか? とユーザーの間で憶測されている。
それが事実なら、審議会のメンバーである自分が知らないのはおかしい。
このAGというゲーム世界には、秩序を守り不正を監視するマザーというAIが頂点にいる。もちろんそれだけが彼女の仕事ではないが。
この世界では様々な形で協力プレイが可能。
プレイヤー同士の戦いは規約によって禁じられているが、それでも同じユーザーから狙われやすい者は一定数いる。
ユーザーの不正を裁くのが審議会。
よって『裁判所』と呼ぶユーザーもいる。
メンバーは厳正な審査の上、一般ユーザーから選ばれる。どこの誰なのかは公表されていない。彼らは一般ユーザーとの交流を固く禁じられており、ゲーム自体をプレイすることはほとんどない。
それというのも交流を断つには、プレイしないことが手っ取り早いからだ。その結果プレイ(遊ぶ)のでなく、ユーザーの監視のような役割を果たすこととなった。
「どうかした?」
現実世界では高校三年生である葵は、審議会の制服のせいか少し大人びて見える。葵に声をかけて来た相手は同審議会のメンバーであり、現実世界では父の秘書。
葵の父は会社の経営者であり、前作AGの審議会議長。
有無を言わせず審議会のメンバーから議長の座を押し付けられた葵を心配し、自分の腹心である第一秘書をこの世界に送り込んだというわけだ。
当時、葵はまだ中学生。
心配するのも無理はないだろう。
「
この世界には特殊なシステムが存在する。
それは二十年前の事故の原因となった『システムレジェンド』というものだ。葵にはそれがどんなものか、まだわかっていない。
「つまり?」
と、葵。
「調停者である者たちが制定される条件が揃ったということになりました」
「そうか」
マザーの手足となる七人の調停者。
彼らの仕事は主にユーザー同士のもめごとの仲裁。
──表向きは。
前作でも活躍した彼らは、現実の世界で例えるならポリスのような存在。
それに対し自分たち審議会は裁判官のような存在。
仲は良くないとは聞いているが、葵は明るく人懐こい性格。自分ならうまくやっていけると思っていた。
「メンバーの中に葵さんの良く知る方が……」
彼らの組織はまずマザーがリーダーを決め、リーダーと相性の良い五人が公正に一般ユーザーから選ばれると聞いている。
七人のうちの一人はリーダーが右腕として任命。
メンバーの中から選ぶ場合は人員が一人補充される。
「知ってる人?」
葵は不思議そうに彼へ聞き返す。
「大崎 久隆さんです」
知っているも何も彼は自分にとって大親友であり、居心地のよい彼の家に葵は居候している状況であった。
「まじか……」
葵は彼の名を聞き、絶句したのである。
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