16・適合率

文字数 1,418文字

「そういえばあの小生意気なガキんちょは、お宅の知り合い? 随分とジョーカーと懇意にしているみたいだけれど」
 七人目のメンバーはコードネーム、スペード。天才小学生プレイヤーとして有名なことは音羽も知っていた。NO.7の霧島咲夜と同じくランキングの常連。
 そのためか少し態度が横柄。
 子ども扱いしたことがいけなかったのか、音羽に対しては少し刺々しい。

「いんや。佐倉……ジョーカーの本名な。も、そんな親戚がいるって話はしてなかったな」
「なら、AGの中で知り合ったのかしらね」
と音羽。
 スペードについては謎が多い。
 小学六年からプレイ可能なゲームな為、恐らく彼は六年生なのだろう。
 リアルスキャンなのかアバター作成型なのかは分からないが、長い髪を後ろで一つに束ね、パーカーに短パンと言った軽装備。その上に制服であるコートを羽織っていた。

「まあ、メンバーに選ばれるくらいだ。足を引っ張るようなことはないさ」
 音羽もその意見には概ね同意だ。
 不正を取り締まる側の人間が問題を起こしていてはお話にならない。
 調停者である自分たちは、七名しかいない。世界全体として考えれば、多いとは言えない人数。だが守る対象は一人な為、この人数でも問題はない。
 何かあれば審議会が動くだろう。

「さて、俺たちは何から始める?」
「そうね、AGにインしてファーストたちと合流したいわ」
「準備はしてあるのか?」
という南の問いに、
「ええ。ここに」
とバッグをポンポンと叩く音羽。
「じゃあ、俺の部屋に」
 立ち上がる南に音羽は黙って従った。
 いつもなら憎まれ口の一つも叩くところだが、今はそれどころではない。

 その後、二人は予定通りAGの管理塔前にいた。
「マザーはどっち派なのかしらね」
 背負っていたマシンガンを収納空間にしまいながら音羽は呟くように零す。
 すると、
「どっちとは?」
 靴紐を結び直していた南が顔をあげ、音羽に問う。
「封印派、召喚派よ」
「ああ、システムレジェンドの」
 ”どうだろうなあ”と彼は続ける。

 二十年前システムレジェンドが暴走した時、当時の調停者たちはその命を賭けて暴走からプレーヤーたちを守ろうとした。
 だが犠牲になった者も多くいる。
 彼らの意識はこの世界に留まり、未だ肉体に戻らないとも言われていた。その彼らの精神がとどまっている場所がユートピアと呼ばれている地下世界ではないのか? それは噂に過ぎないが。

「もし、また暴走したとして。音羽、お前なら命を賭けられるか?」
 南の言葉に音羽はフッと笑う。
「何言っているの。ファーストについていこうと決めた時から、既に覚悟は決まっているわ」

 まだ小学生のスペードについては分からないが、今回調停者に選ばれた全員が『二十年前の事故の真相』を探ろうとしている。
 管理塔の中枢に入れるのは、審議会の幹部クラスか調停者のみ。
 彼らにとって選ばれたことはチャンスでもあったのだ。

「問題はセトね」
「話によると、適合率百パーセントらしいじゃないか」
 適合率が高ければ、器が有利。支配することが出来るということ。
 逆に適合率が低ければ、支配されるということだ。とは言え、その適合率は九十九パーセント以上からしか選ばれないはずだ。
「つまり、逸材ってことなのね」
 システムを支配するということは、自分のモノにし自由自在に操れるということ。
「なんだか面白くなってきやがった」
「そうね」
 二人は管理塔を見上げ、不敵な笑みを浮かべたのだった。
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