27・向かうべき場所

文字数 1,146文字


──彼女の強さはその魔力適正にある。

 通称AGというバーチャルリアリティーゲームでは、自分の分身となるアバター作成をするときにいろんな適正が表示される。
 主なものが職業、属性、武器などの特性だ。
 開始時にメインの職業、属性、武器種を設定するスタイルで、仮にほかのものを選んでいても、メインスタイルには一瞬でチェンジできるのが特徴である。

 AGでの自由度は無限大。戦闘中に職の変更ができるゲームは珍しくないが、パラメータの再振りや援軍要請なども行うことができる。
 つまり判断力と想像力、発想力が問われる協力式のゲームなのだ。
 過去には全てのパラメータを防御に全振りし、強敵から逃げ切ったプレイヤーもいると聞く。
 ランキング上位に名を連ねる面々は強いだけではない。
 非常に発想力が豊かであり、戦い方が斬新であるともいえよう。

「美桜。現在の職は」
「弓師だけど……」
 パラメータを閲覧しているはずなのに、あえて問う佐倉に首を傾げた美桜。
 適正値によってパラメータにボーナスがつくシステムを保有するAG。
 後衛武器を勧めたのは自分。いくら魔法使いに適していてもソロに向かない職だからだ。
「システムがいつ復旧するかわからないし、現状を知るためにも管理塔へ行かねばならない。その間その姿でいるのはまずいと思う」
 内部通信機能で位置確認もできる以上、システムが復旧しようがしまいが調停者として招集されるのは時間の問題。

 美桜は幼いながらも佐倉の話を真剣に聞いていた。
 子供の持つ力は時として絶大だ。純粋ゆえに乗り切れることもある。
「どうしたら?」
「魔法で姿を変えましょう。できます?」
「それくらいなら」

──それくらいなら、ですか。簡単に言ってくれますね。
 やはりランキング上位者というのは伊達ではない、ということでしょうか。

 出逢ったばかりの頃、まだシステムを理解していなかった美桜は確かに弱かった。既定の年齢に達していない彼女にもわかりやすく説明し、教え込んだのは佐倉だ。
 理解し覚えてしまえば、美桜がランキング上位者となるのは早かった。
 小学生プレイヤーは確かに一定数はいるが、子供には難しいゲームとされている。そんな中でランキング上位に名前を連ねるのはただ事ではない。
 あっという間に知れ渡り、その辺でも声をかけられるようになった。

「佐倉。変じゃない?」
「見た目は。声も変えられます?」
「もちろん」
 メイクアバター時の姿に戻った彼女は、まかしとけとでもいうように親指を立てる。
「では管理塔へ向かいましょうかねえ」
「ウイングボードは使えそうだね。あそこにあるワープポイントが稼働するかどうかわからないけれど」
 美桜の指さす方へ佐倉は視線を向ける。試してみる価値はありそうだが、状況的に期待はできなかった。
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